なぜ東大で不正や捏造が頻発するのか

アゴラ編集部

当たり前ですが「お勉強」ができるから人格的に高潔とは限りません。勉学や科学と倫理や道徳は無関係です。むしろ、今のような受験システムから高潔な人格は生まれ難い、と考えるほうが自然でしょう。文科省と厚労省が8月9日、科研費流用疑惑やデータ捏造などの不正が頻発し続けている東京大学の「実地調査」をしたそうです。


東大の不正捏造事件は、ざっとこの10年を見渡しても枚挙に暇がありません。研究データの裏付けがなかった2005年の多比良研究室事件、研究倫理に関する虚偽記載があった2008年の医科学研究所事件、学位論文を盗用した2008年の2010年のアニリール・セルカン事件、不適切なデータを論文に記載した2012年の分子細胞生物学研究所事件、2013年に発覚した政策ビジョン研究センターの科研費詐欺事件……。

もちろん、東大以外の大学や研究機関にも不正はあります。最近では、京都府立医科大や東京慈恵会医大などが行ったノバルティスファーマの降圧剤の臨床試験データに手を加えられたのではないか、という疑惑があります。しかし、これだけ同じ大学から事件が頻発している例は少ない。どうして東大からこれほどまで多くの不正が生まれるのでしょう。

京都大学の山中伸弥教授らが開発したiPS細胞などの医薬研究分野には、多額の科研費が注がれるようになりました。再生医療やゲノム関連研究では、東大が国内外の研究機関より一歩も二歩も先んじていた。しかし、ノーベル賞も受賞したiPS細胞では京大の後塵を拝してしまいました。こうした中、各研究機関の間はもちろん大学内でも科研費の「争奪戦」が激しさを増しています。世界的な科学雑誌への論文掲載を目指す、といった結果重視の価値観の問題もあるでしょう。

しかし、その根底には、不正に対して厳しくし過ぎると研究活動のポテンシャルが下がる、というジレンマがあるのだと思います。激しい研究競争の現実に対する本音と建て前の使い分けもあるのかもしれません。この相克を解決するためには、学内における確固としたガバナンスの確立と強いコンプライアンスの意識が必要なんだが、東大という巨大な組織の中でこれらが機能不全に陥っている、というわけです。

研究者だからといって人格高潔な聖人君子ではありません。性善説にたっていては、不正や捏造はなくならない。もちろん、研究成果や国際的な競争に勝てる実績も重要です。

しかし、我々のような一般市民を含めた社会が、科学や研究者を甘やかさず無批判に従うことなく、捏造や隠蔽、不正などに対して厳しい姿勢をとることが必要です。不正を発見し、糾弾し、罰する、ということがシステムとして機能することはもちろん、犯罪行為の範囲ではない違反や不正は、たとえ法を犯していなくても科学研究に求められる高い倫理性により厳しく律せられる、ということが「常識」にならなければならないのだと思います。

随意契約.com
文不正は何故起きるのか、論文の不正を撲滅、解決する方法とは

※今週の「今日のリンク」は恐縮ですが「お盆バージョン」で短めでやってます。


アゴラ編集部:石田 雅彦