「税収弾性値」というまやかし

池田 信夫

小黒氏の記事にちょっと補足。高橋洋一氏にだまされて本田悦朗氏も最近、「最近の日本の税収弾性値は平均3以上だから、名目成長率を上げれば消費税を上げる必要はない」といっているらしい。


 税収弾性値=税収の伸び率/名目成長率

だから、もし彼らの主張が本当なら、成長率を1%上げれば税収が3%以上増えることになる。しかしその時系列データは、小黒氏も指摘するように、非常に振幅の大きいデータを平均したもので、統計的に意味がない。

ちょっとおもしろいブログを見つけたので、紹介しておこう。次のような2つの名目成長率と税収の時系列データがあるとする。

毎年の短期弾性値を平均すると、どちらも4になるが、全体としての長期弾性値は上の図では1、下の図では-1である。つまり短期的な税収が大きく波打つと、税収が減る場合も弾性値は大きくなるのだ。日本の2000年代の場合は、税収の減る年が多く、所得減税も繰り返されたので、弾性値が過大に出ている。

「名目成長率を上げて財政を再建する」というとき、重要なのは短期の振幅の大きさではなく、長期の安定した税収増である。長期の弾性値は1前後だというのが財務省や多くの専門家の推定であり、これは80年代からほとんど変わっていない。財政にも「魔法の杖」はないのだ。