太陽光発電による脱原発を考える(6) ~エネルギーミックスの観点から~ --- うさみ のりや

アゴラ

まだまだ、しつこく太陽光発電による脱原発の可能性を考えてみます。

別に私は本気で太陽光発電で原発を代替できるなんてあまり考えていないのですが、再生可能エネルギーのエース格の持つ可能性がどの程度のものか、一気通貫して人が読んでわかるような形で示してみようと思っているだけです。それでは始まり始まり。

現状のエネルギー源構成問題

まずは現状の電力のエネルギー源構成がどのようなものか、設備と運用のそれぞれの観点から見ていきたいと思います。
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ということで設備容量の観点から見ると、2011年時点では火力発電が石油・石炭・LNG全て合計で60.7%(≒1億5,000万kw)、原子力20.0%(≒5000万kw)、水力8.5%(≒2250万kw)、新エネルギー関連施設が0.2%(≒50万kw)、後は少し特殊な揚水発電が10.7%(≒2700万kw)程度となっています。ここで揚水発電の特殊性を説明するために電力設備の運用についてご説明しますと、ご案内の通り電力需要は昼にピークが来て、夜にボトムが来ます。火力発電はこれにあわせて出力を変動できるのですが、ベース電源である原子力発電は一度発電を始めると柔軟な出力調整ができず常に一定の電力を発電し続けます。そのため、一種の蓄電方法として夜の間に原発で発電した電力を用いて水をくみ上げて、ピーク時に水力発電をする方式の発電を「揚水発電」といいます。いわば原発の付属物のような施設で、独立電源とは呼べないので後々の議論の対象からは外すことにしたいと思います。
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そんなわけで、揚水発電分を除いて修正して設備容量から電源構成みると2011年の電源構成は
 火力が67.9%(≒1億5000万kw)、原子力が22.3%(≒5000万kw)、

水力が9.5%(≒2250万kw)、新エネルギー関連が残りの0.3%(≒50万kw)
ということになります。では現実の運用はどの程度になっているのか、と見てみるとこんな感じです。
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2011年度から原発が止まって凄い勢いで火力が増えてきた結果
火力:88.3%(8307億kwh) 水力:8.4%(790億kwh)

原発:1.7%(160億kwh) 新エネ:1.6%(150億kwh) 
となっています。2010年は原発の比率は28.6%(2690億kwh)で火力の比率は61.7%(5805億kwh)、でしたからきれいに原発から火力にシフトした感じですね。脱原発という文脈で論点を考える場合、ほとんどの原発が止まっている現在より、こちらの数値を基準に考えるべきなように思えますので、改めて今回のテーマ設定を考えると「太陽光発電で2690億kwhの発電量を生み出すことは、エネルギー源の性質を考えた場合果たして可能なのか?」ということになりそうです。

太陽光発電の発電特性

さて現状のこうした電力構成が太陽光発電の大量導入に耐えられるのか考えていきたいと思います。下の図は太陽光発電の、晴れ、曇り、雨の日の発電パターンを分析したものと、一日のエネルギー源のパターンを比較したものです。

スクリーンショット 2013-08-19 19.37.40揚力発電
太陽光発電は12時~14時ごろをピークに5時~18時にかけて電力を生み出す、ということになっていますが、需要の波が8時~20時にかけて発生しているので少し需要とは2~3時間ずれた形で電力を発電しています。一方で原発は常に一定の電力を安定して生み出している形でいわゆるベース電源として機能しています。こうして見ると、今更ではありますが太陽光発電と原発は電源としての性質が大きく異なっており、むしろ原発に電源としての性質が似ているのは水力発電だということがわかります。
一方で太陽光発電は晴れ、曇り、雨で発電量が劇的に変わるので、出力変動が激しくなります。そのためバックアップ電源として火力発電が、太陽光発電の出力変動にあわせて発電量を調整する必要があります。これは逆に言えば火力発電の調整可能な範囲でしか太陽光発電は導入できないということになります。まさか電力会社が太陽光発電を導入するためだけに火力発電を新設するという馬鹿げた投資をするはずはないので、必然的に太陽光発電の導入量は現行の火力発電設備の対応可能な範囲が上限になるということになります。これは風力発電にも言えることなんですけどね。なお環境省も火力発電の新設は環境アセスと地球温暖化防止を理由にそう簡単に認めないので、そういった観点でも火力発電の増設はハードコアな路線です。

太陽光発電の導入上限

先程述べた通り現状の火力発電の設備容量は1億5000万kwです。火力発電も突然燃えだすわけではないので、再生可能エネルギーにあわせて柔軟に出力調整するためには設備能力の3割程度は稼働していないといけません。そこで単純に考えると、出力ベースでの太陽光発電設備の導入上限は(1億5000万kw×70%=1億500万kw)ということになります。ただ再生可能エネルギーを導入するために、火力発電をいつでもフル稼働できるようにするというのではなんのために再生可能エネルギーを導入するのかよくわかりませんが(笑)

現実に北海道や東北での導入が多いことを想定して設備利用率をやや低めにして、設備利用率11% で計算してみると1億500万kwの設備では、
1億500万kw×24h×365日×11%(設備利用率)=1012億kwh
ということになります。これはかなり悲劇的な数値。。。。全国の火力発電全てを太陽光発電の バックアップ電源に理想的に用いることができたと考えても震災前の原発の発電量である2690億kwhの半分にも満たないということになります……
どうしても太陽光発電設備を増やしたければ火力発電をバックアップ電源として増設させなければいけないことになりますが、それは先ほども書きましたが経済効率の観点からとても実現不可能な話でしょう。

総評

ということで本日の結論。、
「バックアップ電源のことを考慮すると理想的な制御をしても、太陽光発電では年間1012億kwh程度の発電しかできず、震災前の原発の発電量である2690億kwhに遠く及ばず脱原発は不可能。」
ということにさせていただきたいと思います。個人的な感覚ですが、太陽光や風力のような自然環境に左右されやすい電源の導入は全体の電力システムの安定性を考えると10%程度が上限ではないかっていうような気がしますね。それにあわせて火力発電の準備をさせなければならないと考えると、あまりエコでもありませんしね。本当に再生可能エネルギーで脱原発をしたいなら、原発のベース電源としての電力の特性を考えても、設備利用率がかなり安定する水力発電を上手く活用する手法を考える必要がある気がします。
CIS太陽電池

この辺で最低限押さえるべき論点は述べてきた気がするので、次回はまとめに入っていきたいと思います。

ではでは今日はこの辺で。


編集部より:このブログは「うさみのりやのブログ」2013年8月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はうさみのりやのブログをご覧ください。