元CAが「ANA正社員採用」を考える --- 西村 由美

アゴラ

全日空が8月19日、2014年度から客室乗務員(CA)の採用を約20年ぶりに、契約社員から正社員に戻すと発表しました。当日夜のNHKの「ニュースウオッチ9」がトップで報じるなど、業界だけでなく社会的にも注目を集めています。LCCの相次ぐ参入に伴う人材獲得競争が背景にあるということですが、働く女性の視点から見ると、長期的な課題が残されているように思います。


たしかに今回の正社員化のメリットは大きいでしょう。その一つがモチベーション。私自身もかつて別の航空会社で契約のCAとして働いた経験がありますが、契約CAの多くが本音では「会社や先輩に嫌われたら正社員になれないのでは?」と萎縮していました。雇用が安定する分、業務に集中できます。ファーストクラスを中心に付加価値の高いサービスを行う上でも効果的でしょう。日本の強みである「おもてなし」精神を反映したその質の高さは、世界の航空会社のなかでも引けを取らないと自負します。

■CAも「30歳定年」!?
長期雇用となると、他の女性の職業と同じく、多くが「結婚・出産・子育て」に直面する30代以降のキャリアをどう築き上げ、会社側もそうした中堅の人材をどう活用するか有用な環境を整えなければなりません。CAの世界は華やかなイメージの裏で、時差や不規則な仕事のために出産・子育ては容易ではなく、離婚される方も結構います。そうした厳しい職場事情にあって、結婚や出産を機に人材の入れ替わりが進んできたのも少なからぬ事実。女子アナの「30歳定年」説ほどではないにせよ、雇用主の航空会社もそうした状況に苦慮してきました。

一方、航空業界の外に目を向けると、日本経済の再生に女性の力を活用する機運が高まっています。これまで日本の女性の労働力率は、先進国でも低く、出産した6割が仕事を辞め、再就職の半数以上が非正規雇用。女性の管理職登用の割合も先進国では韓国と並んで、極端に低迷してきたのは周知の通りですが、昨年秋にIMFからも勧告されたように、経済停滞の主因である生産年齢人口の落ち込みを少しでも補うには女性の労働力活用が欠かせなくなっています。

■CA人材の強みと弱み
女性の代表的職業とされるCAも実は、これまでの日本型雇用環境の典型パターンにはまっていました。というのも一度退職して家庭に入った後、再び社会に出て就職するのは難しいのです。JALが経営破綻した当時、ご主人が社員、奥様が元CAの専業主婦というご家庭がテレビの取材を受け、奥様が家計の足しにと就職先を探しても、見つかったのはパートのレジ打ちくらいで苦心していました。実際、私の経験でもCA業務が長期化するとパソコンスキルが十分に身に付かないので、OA化が当たり前の企業社会で働くのは簡単ではないと思います。私自身、航空会社を退社後、CA志望者の予備校を起業するにあたり、会計や税務、ホームページ作成など自前でやっていく中で、経験やスキルの不足のために戸惑いの連続でした。

しかし、CAの経験者はビジネスマナーや接遇のスキルなどは鍛錬されています(退職後にマナー学校を起業している方がいるほどです)。語学力、海外の料理などへの見識も優れた方が実に多く、ビジネスパーソンとしての潜在能力の高いと思います。今回の正社員化にあたり提案したいのが、30代以上のCA経験者については、社内外の職場との人事交流を深めて視野もビジネススキルも身に着けてはいかがでしょうか。現状は一握りの優秀なCAが広報部門などで1年程度、交流するのみにとどまっています。

■女性人材の戦略的活用を
もちろん、航空会社の経営視点に立てば、一人のCAの養成にかけた訓練費や資格取得など数百万円の投資を回収せねばなりません。専門職として育てたのに違う仕事に異動させる判断は簡単ではありません。しかし、事務や営業といった部門にも、現場の経験を元に責任をもって仕事をできるCAも多いと思います。また、一定期間、違う業務をした経験を現場に持ち帰ることで新たな創意工夫につながることも期待されます。当然、幅広い業務を経験することで管理職を現実的に目指せるCAも増えることでしょう。

記者会見をされていた全日空客室センターの河本宏子・執行役員は、私にとってCAの大先輩に当たります。今は、女性ビジネスパーソンの成長をお手伝いするコンサルタントの立場からではありますが、全日空の今回の動きが、航空業界で女性人材の戦略的活用が進むきっかけになればと期待します。

西村 由美
エアラインスクール キャリアージュ 株式会社美キャリア 代表取締役
厚労省指定キャリアディベロップメントアドバイザー
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