AKB48では、篠田麻里子(7月)に続き、今月には板野友美、秋元才加も卒業するという。そのうち、モーニング娘。のように、誰一人として顔と名前の一致するメンバーが居なくなりそう(年を取った証拠)なので、記念? にAKBネタを書いておこう。
それでは、AKB48における「人事制度」を考えてみたい。ただ、実際にはAKBの場合、メンバーそれぞれが別の事務所に所属しており、各事務所の報酬ルールで活動しているようなので、全て架空の話にはなるが。
たとえば、仮に以下のメンバーが1つの会社に属する社員とする。
「組織貢献」と「タレント力」評価は、私の勝手な印象で決めた(S>A>B)。
※指原莉乃は、現在HKT48
※CM出演社数は、2012年1月~11月 ニホンモニター株式会社調査
※総選挙順位は、直近3回の平均順位
まず、各要素を整理してみよう。加入期は、企業で言えば勤続年数だ。芸能界では年齢よりキャリア年数が重視されるので、これが「年功」ということになる。
「成果」「業績」は、AKB全体としての売上のほか、CM出演やテレビ番組出演による個別売上。この表では、CM出演社数で見ることにしよう。このほか、総選挙での順位(ここでは過去3回の平均順位)は、ファンからの支持=顧客からの人気や満足度を示しており、これも各メンバーの「成果」と言える。組織貢献についても、チームをまとめたり、新人を指導することなので、先輩やリーダーとしての「役割成果」。また、これらの成果を出すための努力は、「プロセス」と位置づけられる。
最後に、タレント力は、仕事の「能力」。分解すれば、歌唱力やダンス力、バラエティー番組での受答え力、ドラマでの演技力といった要素になろうか。
さて、あなたがこの会社の社長だったとして、どのような人事制度を採用するだろうか。
もしも成果主義の人事方針であれば、「成果」や「業績」を重視した処遇を行うことになる。CM契約で稼いでくれる板野友美や篠田真理子の給料を高くするだろう。だが、ここで悩んでしまう。確かにCM契約による個別売上は重要だが、AKB全体での売上はどうする。 均等割り? 総選挙での順位が顧客からの人気や満足を表しているとすれば、大島優子や渡辺麻友への配分を多くすべきか? また、チームとしての組織運営を考えれば、組織貢献度S評価の 高橋みなみ はどうする? 売上高や利益などの業績だけでなく、顧客満足度や組織貢献度も立派な「成果」である。
一方、能力主義の人事方針なら、仕事の遂行力を評価の中心に置くだろう。リーダー(総監督)としての役割を担える 高橋みなみ やタレント力の高い大島優子の待遇を高くすることになる。ただし、能力というのは計測しづらい要素でもあり、一般の企業では年功に引きずられるケースが多い。また、能力の高い人が必ずしも高い成果を出すわけではない。特に芸能界などは、歌の上手い歌手が売れるとは限らない、ことに象徴される。
最後に年功序列の人事方針なら、年齢や勤続年数が処遇に色濃く反映される。本来、年功とは「長年にわたる功労」のことであり、単に年数だけのことではないのだが、ほとんどの会社では年齢・勤続年数とイコールで捉えられている。仕事の成果や能力とは一致しないのだが、一概に軽視もできない。AKBの場合、加入期が早いメンバーは、初期の売れない時代からチームを支えてきたメンバーであり、メジャーになってから加入したメンバーとの差はあってしかるべきとも思える。ベンチャー企業の創業期からの社員などが、これに当たる。
さて、ダラダラ書いたが、企業の人事制度は一般に思われるほど、「成果主義」「能力主義」「年功主義」といった言葉だけで割り切れるものではない。「成果主義」の会社であっても、たいてい能力やプロセスなどの評価はあるし、年功を全く無視するというわけではない。また「成果」と一口に言っても、個人成果もあればチーム成果もある。その中身も短期の数値業績もあれば、中長期に成果の現れる人材育成や商品開発などもある。
このように人事制度は重要視する要素とそのバランスが、会社によって微妙に異なるのだ。しかも各社とも試行錯誤しながら、運用や見直しを繰り返している。
したがって、「年功序列は古い」とか、「成果主義は日本人に馴染まない」といった言い方は、明らかに間違っている。いずれの人事方針であっても、企業業績と社員満足を両立させている会社はいくらでもある。要は、その会社の経営方針や組織風土に合致しているか、また評価基準などの制度内容や運用が適切になされているか。人事制度の優劣は、これらのポイントで判断されるべきものである。
AKB48の人事制度が上手く機能しているかどうかは知る由もないが、今後ともトップメンバーの卒業が続くのかどうかが、一つのバロメーターになるのではないだろうか。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”