「I have a dream」演説から50年。新差別を生んだ金融自由化!

2013年08月30日 11:28

1963年8月28日。奴隷解放宣言100周年に行なわれた「I have a dream」演説は、韻を踏んだ美しい文章をキング牧師が朗々たる美声で訴え、リンカーン記念堂前の広場を埋め尽くした25万人の聴衆を熱狂させた。

「人々は夢を持ってはじめて責任を自覚する。だからこそ、政治家の最大の責務は国民が夢を持てる社会にする事だ」と言ったトーマス・ジェファソンの影響を色濃く受けたこの夢は、その後どうなったであろうか?

「I have a dream」演説に触発されて1964年に成立、施行された市民権法は、多くの社会的差別の壁の崩壊に大きく貢献した。


キング師が演説で触れた夢の中でも「旅に疲れた重い体を、道路沿いのモーテルや町のホテルで休めること」は実現し「白人専用という標識」は撤去され「ミシシッピ州の黒人」も投票できる時代になった。

そして、南部の黒人差別の象徴であった「メイソン・ディクソンライン」も跡形も無く消え、黒人の居住を阻んできた郊外の高級住宅地の門戸も解放された。

閉ざされた職場も次第に解放され、中でもスポーツや芸能の世界での黒人の進出は目覚しく、黒人禁断のスポーツであったゴルフやテニスにまで黒人チャンピオンが出るまでになった。

更に「不正と抑圧の炎熱で焼けつかんばかりのミシシッピ州や邪悪な人種差別主義者の州権優位論や連邦法実施拒否を主張する州知事のいたアラバマ州」でも、今日では黒人から多くの自治体の長や議員が誕生している。

この様に、目に見える壁は目覚しい勢いで消え去っても、新たな目に見えない壁が出来つつあるのが問題である。

「黒人が警察の言語に絶する恐ろしい残虐行為の犠牲者」になる事は減ったが、警官の一存で職務質問され警察に連行される人々の85%が有色人種であり、女性とともに職場での昇進から取り残された人には有色人種が多い。

減税、規制撤廃、小さな政府を主張するリバタリアンを中心とした「茶会党(ティーパーテイー)」等のネオコン(右翼)は、新たな州権優位法や連邦法実施拒否を掲げ、投票資格強化や移民規制を主張している。

これは明らかに、形を変えた差別の壁の台頭である。

「この新しい騒然たる不協和音も信念さえあれば、兄弟愛の美しい交響曲に変える」ことができると考えたキング師は「建国の父達が合衆国憲法と独立宣言に崇高な言葉を書き記した時、あらゆる米国民が継承することになる約束手形に彼らは署名したのである。この手形は白人と同じく黒人も含めたすべての人々は、生命、自由、そして幸福の追求という不可侵の権利を保証されるという約束だった。今日米国が、黒人の市民に関する限り、この約束手形を不渡りにしていることは明らかである。」と金融経済を比喩に使って基本的人権の公正の実現を追及した。

実情はどうかと言えば、金融の自由化で持てる者と持たざる者の階級格差と言う新たな差別が登場して来た。

グラス・ステーガル法の廃止は、世界の金融界の混乱だけでなく、モラルの崩壊と言うもっと重大な問題を招聘した。

一例を挙げると、リーマンショックを引き金にして起きた大手金融機関の経営危機救済に米国政府が25兆円近く巨額の税金を投入した翌年に、金融界はその幹部に14兆円のボーナスを支給して平然としている事に表れている。

「嘘も、誤魔化しも儲け得」と言う金融界の風潮は、監督当局が金融界とねんごろになり、善良な第三者や国に大きな損害を与えながら、自分だけは巨額の利益を挙げた人物で、誰一人監獄に行った者もいなければ、嘘で儲けた金の返済をした者すら居ない無法地帯を作りあげて仕舞った。

この事を予言したトーマス・ジェファソンは1816年に「我々の自由を脅かす危険は、軍隊組織より金融機関の方が大きい」と言う手紙を書いている。

金融に限らず、複雑な誤魔化しを見抜くには知識が欠かせない。

これを指してジェファソンは「多数の国民に教育の機会を与え、社会の事情に通じる人間にする事が唯一無二の自由社会存続の保証だ」と言い残しているが、奨学金の大幅減に授業料の値上げが重なった今日の米国は、この点でも後退を始めた。

一般人には理解し難い複雑な米国の税制は、富裕階級が租税便宜国で支払った税金をそっくりそのまま国内税から差し引く特典を与え、巨額なボーナスを現金ではなく株で支払う事で勤労収入の半分以下の「投資益減税」の特典を受けられる不公正な制度を制定している。

貧困者に対する政府援助を「補助金」と呼び、富裕者に対する政府援助を「減税」と呼ぶなど、相当教育を受けていないと判らない誤魔化しも多く、教育機会に恵まれない階級の受ける負担は大きい。

その極端な例は「情報の非対称性」と言う難しい言葉は、実は「インサイダー取引」の捜査経過で、漏らしてはならない情報を特別の仲間だけに伝える事だと判った。

市民権法で禁止された差別は、人種、性別、出生場所など「当人の努力では変えられない事」を理由とした差別に限られ、情報の非対称性とか知識の差が理由で起こる階級差別は対象にならない。

この様に キング師の夢の実現は程遠い。

それでも、自浄能力を発揮して国を変えて来た米国の伝統を信じて、今でも夢を失わない米国民は多い。
こんな米国の国民性に些かの嫉妬を覚えながら迎えた、私の「I Have a dream」50周年記念日であった。

2013年6月30日
北村 隆司

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