朝日新聞の「解雇しやすい特区」という記事がおもしろい。そんな名前は誰もつけてないのに、国家戦略特区を「解雇特区」と名づけて「働き手を守る仕組みは大きく後退する」だの「労働基準法や労働契約法をゆがませる」だのと主観的なコメントを記者が書いている。普通はこういう意見は「有識者」に語らせるものだが、最近の朝日の社会部記者はそういう基本的な訓練も受けてないのだろうか。
そこで逆に彼らの理想らしい解雇できない特区を考えてみた。これは隗より始めよで、朝日新聞東京本社のある築地にしよう。まず解雇は全面禁止だから、コピー取りも守衛も掃除のおばさんも全員、正社員(無期雇用)になる。朝日新聞の好きな平等主義で、彼らにも記者と同じ年収1300万円を払うことにしよう。もちろん終身雇用だから、コピー機がなくなってもコピー取りの「坊や」を65歳まで雇い続けなければならない。
マスコミは非正社員の多い職場で、だいたい正社員の2倍はいるから、彼らをすべて正社員にすると、連結で7800人の朝日の社員が1万5000人ぐらいに倍増するだろう。彼らに年1300万円の給料を払ったら、1950億円。朝日の92億円の連結営業利益なんて吹っ飛んで、たちまち倒産だ。会社がつぶれたら「働き手を守る」ことはできない。こんな簡単なことも、社会部記者にはわからないのだろうか。
全社員の解雇を禁止するなどということは、こういう統制経済にしない限り、不可能なのだ。日本は資本主義だから、仕事がなくなったら労働者を解雇するのはしょうがない。もちろん彼らにも生活があるから、一定の金銭的な補償をして合意の上で退職してもらうルールづくりが必要だ。そういう世界の当たり前のルールを日本でもつくろうというのが今度の「特区」構想である(本来は全国でやるべきだが)。
今の労働基準法や労働契約法は「働き手を守る仕組み」ではなく、正社員の既得権を守る仕組みである。彼らの解雇が実質的に禁止されているために、新規採用が減って若者の仕事がアルバイトしかなくなる。そういう非正社員が今や労働者の4割近い。こういう身分差別を生み出して労働市場を「ゆがませている」元凶が、規制強化を続けてきた厚労省だ。
それを応援する朝日新聞は「正義の味方」を気取っているが、業界では社内の身分差別が一番ひどいことで有名だ。子会社の社員を偽装請負で差別したとして訴訟を起こされたこともある。そのうち世界各国の新聞社のように、朝日もつぶれるだろう。そのとき初めて頭の悪い記者も、柔軟な労働市場が必要なことに気づくだろう。