中小企業は育てながら勝つ「楽天流」に学べ --- 山元 浩二

アゴラ

プロ野球・楽天イーグルスが、球界参入9年目にして初めてパ・リーグ優勝を果たしました。おめでとうございます。私は福岡出身なので普段はソフトバンクホークスびいきなのですが、不思議と今年ばかりは悔しさがありません。楽天球団はこの2年、被災地の球団として復興のシンボルとして重責を担ってきました。この快挙が一段と東北の皆さんの励みになっていただけたらと思います。


それにしても、初年度(2005年)は38勝97敗と、勝率が3割にも届かなかった弱小球団が、我がホークスを始め、並み居る強豪を押しのけて独走優勝する日が来るとは信じられない思いです。弱小と言われるチームがなぜ強くなったのか、中小企業の人材育成をお手伝いする仕事柄、スポーツ報道に接する際もマネジメントの視点で考えてしまいます。野球ファンの皆さんと同じく、私も、巨人や阪神のような名門は大企業、Bクラス常連のチームは中小企業の位置づけを連想してしまうためでもあります。

この9年のスパンで球団の歩みを振り返ると、ターニングポイントはやはり野村克也さんが監督を務められた時期にあったと思います。一軍半主体の寄せ集め集団から、戦う集団としての基盤が整っていったことに異論はないでしょう。最近、野球に詳しい知人の勧めで野村さんの著書を読み始めたら、経営の要諦と相通じることがたくさん書いてあって、すっかり夢中です。この夏に刊行された「負けかたの極意」(講談社)では、敗戦を糧にすることの重要性、特に弱いチームほど変われる可能性がたくさんあることを説かれました。

本の中では「勝者は変化を嫌う」と、巨大戦力を揃えた名門球団が必ずしも勝つとは限らないことも指摘されています。その中で弱いチームがどう活路を見出すのか。野村さんは「チーム」という英語の語源が、「Together Everyone Achievement More」(みんなで一緒により多くを達成する)の頭文字を取ったとする説を引用し、その意義をこう解釈します。

共通の目標のもとにひとりひとりがそれぞれの役割と責任を果たすことで一丸となって取り組めば、ひとりが行うより、はるかに大きな業績を残すことができる、というわけである

実はこのくだりを読んだとき、私がコンサルティングで最も大切にしている思いと全く同じ考え方だったので驚きました。私のクライアントでも高い成長率を誇る中小企業は、経営ビジョンを全社員がしっかり共有しています。

さらにその上で、企業もチームも目指す方向性をきちんと個々人の腑に落ちているか、実務的なプロセスも“勝つ”ためには必要不可欠です。小さい会社だと経営計画書が整備されていないこともよくあるので、私はその作成や計画書に基づいた人事制度を作るようにアドバイスします。

今年の楽天は、銀次や桝田といった実績の少ない若手がマー君のような柱となる選手の脇をしっかり固められたことで躍進していたので、「きっと何か育てる仕組みがあるに違いない」と、秘訣が気になっていたところ、週刊現代に立花球団社長のインタビュー記事が掲載されていました。それによると、データの専門家を雇うなど「選手や育成の状況、それに対するスカウトやコーチの評価といった情報を、球団全体で共有できるシステムを開発している」のだそうです。

野球でもビジネスでも「育てながら勝つ」ことは難しいものですが、楽天の場合は、しっかりした育成や評価の仕組みをつくり、機能していたことがうかがえます。残念ながら記事では、その一端しか明かされていませんが、職業柄、今後のスポーツメディアの報道や関係者の書籍などでもう少し詳しい話が出てくるのが待ち遠しいです。

山元 浩二(やまもと こうじ)
日本人事経営研究室株式会社 代表取締役