奨学金制度たたきはいい加減やめませんか

本山 勝寛

ブロガーのイケダハヤト氏が「狂った日本の奨学金制度:大学卒業のために「720万円の借金(利子付き)」を背負うのは自己責任?」という記事をブロゴスなどに書いていた。昨今の奨学金に関する議論は、「多額の借金」「急増する滞納者」といったネガティブな側面ばかりを過度に強調し、最近の返済率上昇のトレンドや、奨学金によって高等教育を受けコツコツと返済している大半の受益者の声が全く触れられていないことに危惧を覚える。


奨学金の効能、および滞納者増加と返済率向上の数字のカラクリについては、以前の記事「極貧の私は奨学金のおかけで東大・ハーバードに行けた」でも書いた通りだ。ようは、滞納者が増加していることは事実だが、それ以上に貸与者の母数が増えているのであって、コツコツと返済している割合は年々向上しているのだ。3ヶ月以上滞納している割合は全体の300万人中20万人で、約7%である。この数字は突出して高いわけではないし、年々減少している。また、若者の失業率とほぼ一致する数値であり、奨学金制度が「狂っている」のではなく、どちらかというと若者の雇用やニートの問題なわけだ。

イケダ氏は「利子つき」であることも強調しているが、日本学生支援機構の奨学金には無利子のものも相当額あるし、有利子だとしても1%未満と良心的だ。銀行の教育ローンが、3%程度であるのに比べて低いという事実もおさえておくべきだ。

ただ、現行の奨学金制度に全く問題がないわけではない。たとえば、延滞が3カ月続くと個人信用情報機関に登録するという措置が取られていたり、6カ月以上延滞が続くと延滞分に対して年率10%もの利子が課されたりする。こういった厳しい措置は、延滞率が減っていることは触れずに、「延滞者数が急増」しているという過度で偏った報道に煽られた結果である。奨学金滞納者に同情したつもりで、奨学金制度のネガティブ報道をすればするほど、滞納者の首を締める結果になる。

もう少し全体像をバランスよく分析し、奨学金がもたらすポジティブな効果にも光を当てるべきである。その上で、滞納者に対する措置の緩和や、無利子奨学金枠の拡大、大学授業料減額のための方策などが議論されるべきだ。また、もし学問が得意か好きでない場合、必ずしも多額の奨学金を借りて4年制の私立大学に行く必要はなく、2年間で特定の技術を身につけられる専門学校などに通う選択肢も見直されてよいと思う。卒業生の就職率なども気にせず、とりあえず大学に行っておこう、奨学金も借りられるから上限額を借りておこう、というような安易な考え方をしている人が仮に相当数いるならば、それは改められるべきである。

日本の奨学金制度は決して狂ってはいない。むしろ、たくさんの人に高等教育の機会を提供している素晴らしい制度だ。もちろん、滞納金の回収方法などに改善の余地はあるが、同時に重要なのは、借りる側の教育や就職、金融制度に関するリテラシーの向上だ。イケダ氏の論考は一例に過ぎないが、昨今の奨学金問題についての報道や意見はほとんどがこういった論調ばかりなので、少し違った角度から考えてみた。

学びのエバンジェリスト
本山勝寛
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「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。