日航の「エアバス発注」に思う、納税者利益無視の企業再生制度

2013年10月18日 12:49

日本航空 は、エアバスA350―900型18機と座席数の多いA350―1000型を13機、合計31機の発注契約を結んだと発表した。

これは、公称価格ベースで約9500億円に上る大型契約である。

次期主要機選定などの経営の重要決定を日航自ら行う事は、民間企業の権利であり「高度な安全性、長期使用に耐えうる品質、経済性」などを総合的に判断した」と言う理由でボーイングではなくエアバス機を選んだ事もそれなりに納得出来る。


更にこれまでボーイングの独占市場に近かった日本市場が、日航のエアバス機発注を機に市場開放が強化され競争が激しくなれば、この決定を歓迎はしても批判する理由はない。

しかし問題は日航が普通の民間会社とは異なり、企業再建の経緯からエアバス購入費用の全額が実質的に税金で賄われる事にある。

2010年の日航破綻に際しては、金融機関による5215億円の債権放棄と7000億円近い公的資金による救済に加え、100%減資を行った為に当時の株主にとっては2500億円あまりが紙屑になるなど、日航と企業再生支援機構にとっては前例のない有利な更正条件が政府の支援と保護の下に成立した経過がある。

もちろん、これ等の投融資損は税収減と言う形で国民負担を増した事は言うまでもない。

そして、経営破綻から2年8ヶ月と言う予想より遙かに短期間に再建を果たした経営努力は高く評価するものの、多額の公金を投入した再建でありながら、自力再建企業同様に繰越欠損金の損金算入が認められ、再建後9年間に亘り巨額の法人税を免除されるなど、納税者の負担が更に増える不公正は明白である。

政府は、日航の再建は国庫に3000億円以上の利益をもたらした大成功だと言うが、実際は政策投資銀行や国際協力銀行など税金で運営される金融機関の巨額な投融資損失等の目に見えない国民負担やこれ等公的銀行に政府保証が与えられ、貸し手責任が一切問われていない事を考えると一言に成功と言うのは我田引水も酷すぎる。

それに加え、127億円の第三者割当増資の不透明さなどに疑問を投げかける筋も多く、寧ろ将来に多くの汚点をもたらしたスキームだと言ったほうが適切に思える。

然も、企業再生支援機構が3500億円を出資した当時から、金融機関には債権放棄を、旧株主には株式の全額放棄を要求しながら、再上場の上場益は国が全て取り金融機関や旧株主が一方的に損失を蒙る事が計算されていた出来レースであった事も間違いない。

兎に角、余りにも企業再生支援機構と日航に有利すぎた再建だ。

それに加え、事業会社として戦後最大の大型経営破綻を招いた背景に、国の手厚い保護に胡坐をかいた日航の放漫経営があった事を考えると、再生後も9年間に約1兆2600億円の利益がでるまで1円も税金を払わなくていい税の優遇は、日航の過保護政策の再来と批判されても仕方がない。

他人に負担を転嫁して再建された日航が事実上無借金経営になった上に税金の控除を受け続けるのに比べ、自力で最新鋭の航空機を導入して顧客の期待に応えて来た全日空が 、1兆円近い借金を抱え利払いに苦しむ中で法人税を払い続ける事を見ると、今回の再建スキームは怠け者奨励策に見えて来る。

こうした現状には公正取引委員会の竹島委員長までが「明らかに競争の条件に大きな影響が出ている」と国会審議で懸念を示した位だ。  

この様な特殊な背景を持つ日航が、エアバスに大型発注をした事は、普通の企業の決定と同じに考える訳には行かない。

ボーイング社はエアバスA350の競合機「787ドリームライナー」向け部品の3割以上を日本企業から調達するなど日本の航空業界に特別の配慮を払い、日本の産業界は巨額の設備投資や開発費を投じてそれに応えて来た。

一方エアバスは市場としての日本をほぼ諦め、中国の天津で組み立工場を設立しただけでなく、エアバス民間機のすべての機種に中国企業が生産した部品を使う方針を明らかにするなど中国寄りの姿勢を鮮明にして来た。

その結果、エアバスと中国の協力分野は原材料の調達、部品の生産・設計、大型部品の組み立て・テスト、機体の組み立て・引き渡しなど多岐にわたり、中国のエアバス関連生産額は2012年は3億ドルに迫り、15年には5億ドルの水準に達すると予想されている。

換言すると、日航のエアバスへの大型発注は日本国民の血税を使って日本の航空産業の競争相手である中国の航空機産業の成長の手助けをした事になると言って良い。 

この問題については、そもそも日本航空は救済すべきではなかったという「そもそも論」もあるが、私は2大航空会社しかない日本の現状を考えると日航救済はやむを得なかったと考えるが、この「不公正競争」は何とかすべきである。

日本の様に自立再建が不可能になってから申請する会社更生法と異なり,自立再建が可能なうちに更正法を申請するのが常識のアメリカでは、航空会社の破綻は日常茶飯事で破綻してもそのまま運航を続けるため政府の介入はない。

納税者の権利意識が強い米国は別としても、比較的政府の強いEU・欧州連合でも公的支援を受けた企業活動に対して、自助努力をしてきた企業と不公平にならないガイドラインがあると聞く。

巨額の税金を使って、毎年多数の官僚を留学生として欧米に送っていながら、日本の官僚がこんな常識に近い制度の存在も知らないとしたら問題だ。

いずれにせよ、公的資金を受けて再建された企業の繰越欠損金制度を早急に見直す事は政府の国民に対する喫緊の課題である。

2013年10月18日
北村隆司

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