公立と私学における医学部の教育意義の違い(下) --- 上松 正和

2013年10月20日 07:00

(上)より続く。

さてこれに対比されるのが国立大学です。

顧客は国だといっても差し支えがないと思います。

1人当たり学生が払うお金は6年間で350万円程です。私立大学に比して授業料は雀の涙です。残りは全て国が負担してくれています。

ここでは「医学部に入学させたからには一人前の医師にさせろ!」といおうものなら「お前何言っちゃってん」のレベルです(そうだねウンウンと頷いてくれる仙人様のような教授もいらっしゃると思いますが)。学生はお金を払ってないわけですから。


また九州大学に入学しているのは
・俺/私は名医になるんだ、名医になるには旧帝だ!
という人もいるとは思いますが
・とりあえず家から近いし、勉強出来たから
・とりあえず医者になりたいし、勉強出来たから
・とりあえず金ないけど医者になりたいし、勉強出来たから
・6年間の遊ぶ猶予もらえるし、勉強出来たから

が多くを占めると思います。偏差値高いところにいけばある程度尊敬されるし、医師の世界でも有利という理由もあろうかと思いますが、ようはそんなに

「一人前の医師にならねば」

と切羽詰まった事情を背負っている人は少ないと思います。

また国の要請も恐らく「一人前の医師を養成しろ」ではないと思います。

厚労省や文科省の方に聞いているわけではないですが、昨今に文科省が発表した10大学に100億円や、22大学への助成金差別分配などをみても

「論文の質・数(研究力)」を重視しているように思います。「研究力」を言い換えると「新しい事を発見し、証明・実証できる力」だと思いますし

「研究」によって「社会(公益)へのインパクト」

を積み上げよという要請が聞こえてくるようです。

実際に医学部に限定しても全国に医師免許を持つものが30万人近くいる(働いてない人含む)わけで、1人の医師として働くよりも「薬・機器の開発」や「効率化システムの考案」などで全国の医師の効率を1%ずつ向上させるだけで3000人分の医師としての仕事をしたことになります。

国にとってもそっちの方が良いという判断で研究助成金などを交付するわけです。(多くの大学の先輩方は医師として一人前以上に働きながら、研究でも成果を出すスーパーマン的な働きをしています。自分にはとても真似できません。)

もちろん、実際の多くの医学生にとってはそんなことはどうでもよく、

はやく医者になって健康で文化的な医者ライフを送りたいのが実情といったところなので、国立大学の学部の仕事は

「学生に新しい事を発見・研究することに興味を持たせて、そのための育成をする」

ことだと思います。だから、あまり、いわゆる「デキる医師」を養成しようとはせずに(すぐ役に立つものはすぐに役に立たなくなるという考えの下、たぶん)

それよりかは、教養などの自分や社会を普遍的に見つめる力を幅広い視点で身につけさせることには熱心だったりします。「実技能力」や「英会話」や「経営力」といったものより、もうすこし、自分やその周りを掘り下げて

「いかに新しい価値を見つけるか」、さらには「挑戦する力」「失敗から学び取る力」の基礎を優先しているように思います(優先というよりは、デキる医師の養成をしてないだけとも思いますが)。

なので学生がこれをやりたいとか知りたいと言えば非常に協力的だったりします。

それは、(国からの要請というよりかは)ただ純粋に研究が好きで学生が興味を持つことに好意的な度量の深い方が多いからだとも思います。今まで色々遊びに行っては3桁を超える先生方(学外含む)にお世話になりました。しかも、ご自身の研究でお忙しいのにも関わらず、長い時間熱心に色々な事を教えて頂きました。

1人だけ、私が作って持っていた企画書を学部の機材を使わせる代わりに自分の特許・実績にするよう書き変えを指示した挙げ句、口だけの無能っぷりで研究の進展を邪魔し、さらには私という学生に開発促進費や人脈などをせびる教員を名乗る下衆がいましたが、私は機材に関して他の学部の先生方に協力を仰げたからよかったですが、もし後輩達にも同じことをしたらその時には遠慮なく大学から退場して頂きたいと思っています(九大出身でも医学部出身でもなく、実績もなく大学5年の雇い止めを目前に焦っていたのは察しますが、それでもそういうのはよろしくないです)

逆に言えばこれだけ多くの先生方がいらっしゃる大学の中で99%以上の先生方には、とても好意的に迎えて頂いたことはかなり自分の中で印象に残っています。

これが九州大学が旧帝国大学たる所以だと思います。なにかをしたいと思う者には門戸が開かれてるカンジ。

だから私は彩の国さんの

医学部に入学させたからには一人前の医師にさせる!

という一文を見た時に違和感を感じました。国立大学からそんな一言が出ようはずがないからです。勿論、どうせ聞かない授業で縛らないで欲しい(私は友人に何度もフォローしてもらったりしてますが)とか、もういっそのこと国試用には予備校の授業に任せて、卒試も国試に準じた形にして授業では各医局の面白い話でいいんじゃないかとか思ったりしますが、基本的には大学の教育に満足していますし、感謝しています。なにより大学生活は楽しかったです。

これからどんな制度に変わろうと九大には多くの受験生が集まるだけの「大学の教育の意義」は果たしていると思います。
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以上が私からみた私立大学医学部と国立大学医学部の比較です。自分の大学を卑下せずに書くのは申し訳ない気もしますが(笑)、これがコメント主さんや大学教育者や大学受験者の参考になれば幸いと思います。

上松 正和(うえまつ まさかず)
所属:九州大学医学部医学科6年

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