ルドンに驚く ~ 黒い目玉と絢爛な花束の対比

アゴラ編集部

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先日、東京・丸の内「三菱一号館美術館」で開かれている「近代への眼差し 印象派と世紀末美術」という展覧会へ行ってきました。特別内覧会だったので、同展の担当である安井裕雄主任学芸員によるギャラリーツアーもアリ、という特典付き。安井氏の個性的で熱っぽい語り口が、なかなか楽しかったです。


展覧会自体は、同美術館の所蔵品を開陳したもので、本邦初公開、という作品も多かった。とりわけ、スイスの版画家フェリックス・ヴァロットンのパリの街並みを描いたモノクロの木版画作品群が珍しい。ちょっとアイロニカルでカラカラに乾いた作風が現代的です。報道写真に通じるエッセンスがあるような気がしました。ホドラーなんかを眺めていてもそう感じるんだが、スイス人というのは、お国柄か、どうもちょっと斜に構えたところがある。ヴァロットンの回顧展は、同美術館ですでにこの夏に開かれています。
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個人的には、見逃していたルドンの巨大なパステル画「グラン・ブーケ(大きな花束)」を見ることができたことが良かったです。2012年1月から3月に行われた「ルドンとその周辺」展覧会で公開された「グラン・ブーケ」は、やはりこの美術館の「顔」ともいえる作品。作品保護のため、あまり展示される機会がない巨大なパステル画は、グラスファイバーで均質に当てられた照明効果と相まって見る者を幻想の中へ誘ってくれます。

ルドンといえば「グロッタ(洞窟)の画家」とか「目玉の画家」とか、きらびやかなイメージはあまりありません。しかし、同展覧会で、例の真っ黒な目玉の版画から見つめられた後、ふと「グラン・ブーケ」の部屋へ足を踏み入れると、その絢爛豪華な色彩の競演ぶりに驚愕すること請け合いです。この対比は半端ない。同展覧会の白眉、といっていいでしょう。
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「グラン・ブーケ」をルドンは1901年までに描いたようです。フランスの男爵ロベール・ドムシーという人が、ブルゴーニュにある自身の城館の食堂を飾る絵をルドンに依頼。三菱一号館美術館の解説によるとルドンは総計36平米もの巨大な壁面を描き、それを18に分割したらしい。18あるはずの絵画は、今ではなぜか16点しか知られていないそうです。

その中の最大の作品が「グラン・ブーケ」です。しかし、1990年代末まで、その所在も明らかになっていなかった。これ以外の15点は、1988年にオルセー美術館へ売却されています。2010年まで「グラン・ブーケ」はドムシーの城館にある、と思われていたんだが、三菱一号館美術館が買い取って16点すべてが公開されることになりました。

しかし、18分割した、とルドンが語っているわけで、残りの2点は依然としてまだどこかにあるのか。それともルドンが破棄したのか、思い違いで最初から16分割だったのか、まだ謎は残っています。

安井主任学芸員によれば、パステル画は運搬が難しい、と言います。パステルの微細な粉が落ちがちだから。しかも「グラン・ブーケ」には、単にパステルの粉を乗せているだけの部分があったり、表面をひっかいて微妙なテクスチャーを表現している部分があったりする。さらに、タテ248.3センチ、ヨコ162.9センチという巨大なものです。

実際、このパステル画が売却にかけられた際、どの美術館も美術商も運ぶ手間暇とリスクを考えて二の足を踏んだらしい。同作品にはパステルを定着させるフィキサチーフが使われていないため、フランスから日本への移動がとにかく難渋を極めたそうです。飛行機が離着陸でガタガタ揺れるたびに心臓が飛び上がったり、大き過ぎてコンテナに斜めに入れたり、最後には達観して「どうにでもなれ」という気分になったり、その魅力を損なわないための移動は「賭け」だった、と安井主任学芸員は言います。「もう二度とこの美術館からの移動はない」そうなので、今後ぜひまた見に行きたい作品だと思いました。

「三菱一号館美術館名品選2013 ─近代への眼差し 印象派と世紀末美術─」
2013年10月5日(土)~2014年1月5日(日)、10:00~18:00(祝日除く金曜日のみ20:00まで。入館は閉館の30分前まで。1月3日は18時まで開館)。月曜休館(祝日は開館、翌火曜休館。12月24日は18時まで開館。12月28日~2014年1月1日まで休館)。会場は三菱一号館美術館
主催:三菱一号館美術館、テレビ朝日
協賛:大日本印刷

ホシヲカゾエテ
近代への眼差し 印象派と世紀末美術

※このブログで紹介している写真は、三菱一号館美術館より特別許可をいただいて撮影したものです。


フードペアリング仮説 「“科学的”食材組み合わせ」による新メニューの開発
夜食日記
「匂い」からのアプローチで、食材の関係から食事のメニューを考えているブログです。傾向の似通った匂いの食材同士を組み合わせよう、ということらしい。「料理は化学」という人もいます。微妙な組み合わせのレシピで、複雑に構築されたカテドラルのようなもの、それが美味しい料理です。日本食にはあまり「スメル」感がありません。ウナギの匂いくらいか。あまり、くどくどした匂いを押しつけるのは、日本料理の「粋」に反するのかもしれません。しかし、中華やフレンチ、イタリアンはちょっと違う。だからこそ、このブログで紹介されているような、フードペアリングを使った「情報学」が必要になるんでしょう。

With nuclear plants idled, Japan launches pioneering wind project
PHYS.ORG
東大などが参加した経産省の「福島洋上風力コンソーシアム」が、福島県楢葉町の沖合20キロの洋上に「浮体式洋上風力発電所」を作り、11月11日に運転が始まった、という記事です。これは、ちょうど福島第二原発の沖。東北電力を経由し、ここで発電された電気を約1700世帯へ供給するらしい。この記事によれば、日本の潜在的な風力エネルギーは1570ギガワットだそうで、その先鞭をつける施設というわけ。しかし、風力だけじゃダメでしょう。ほかにも、海流エネルギーを利用したり、中小の水力を集めたり、中央集権的なエネルギー供給からの脱皮、というのは一考する価値がありそうです。

スウェーデンでは受刑者人口減少、刑務所の供給過多で4所を閉じることに
GIZMODO
受刑者、と言ってもいろいろでしょう。重罪を犯した人もいれば、とばっちりみたいな軽犯罪で捕まった人もいる。この記事に紹介されているように、刑務所に長くいさせない、ということで行政コストを減らす、というのは、果たして本当にいいのかどうか、長い目でみていく必要がありそうです。色眼鏡で見たくはないんだが、おかしな人間がすぐシャバに出てこられても困る。社会の側が前科者をどう受け入れるかも重要です。刑務所に長くいると再犯率が高くなるのか、それとも逆なのか興味深い。居心地のいい刑務所なら、ふと舞い戻りたくなるのかもしれません。

プリウスの疑似走行音
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兵庫県だかの中学生が、ハイブリッド車のホイールにくっつけて音を出す装置を発明して話題になったんだが、その後、アレはどうなったんでしょうか。大手の自動車メーカーは採用しなかったのかな。アレは低速時だけ音を出すという画期的なもんでした。自動車メーカーは、スピーカーで音を出す、という「原始的」な発想で対応しているようです。何のアイディアもない。このブログでは、モーター音なんかを聞かせても危険を知らせることにはならん、と憤っています。


アゴラ編集部:石田 雅彦