「強行採決」は民主主義の機能する第一歩

池田 信夫

秘密保護法案は、参議院の委員会で可決された。朝日新聞の社説は「採決強行は許されない」と騒いでいるが、強行採決などという言葉は日本でしか使わない。英米には「フィリバスター」と呼ばれる長時間演説して議事を妨害する議員がいるが、その演説が終わると議長が審議を打ち切るのは当たり前だ。


ところが日本では議運や国対で与野党の合意によって審議日程が決まり、議長がそれを無視すると「強行採決」と呼ばれる。与党も野党に配慮して抵抗の強い法案は後回しにするので、会期切れで廃案になってしまう。このような世界に類をみないガラパゴス政治は、55年体制の自民党単独政権の中でできた慣行である。

閣議決定した法案は自動的に通るので、野党の唯一の抵抗手段は審議拒否で会期切れに追い込むことだ。したがって衆参のねじれが解消されても、国対で了承されない限り法案は通らない。与党もそれを利用して、党内で反対の強い法案は後回しにしてつぶしてしまう。民主党政権の「国家戦略局法案」は何度も国会に出たが、すべて会期切れで廃案になった。

つまり日本の国会は多数決ではなく、実質的な全会一致なのだ。このため増税やスパイ防止法のように強く反対する少数派がいると国会に何度出ても流れ、コンセンサスの得やすいバラマキ福祉はするすると通ってしまう。このような慣行が残っている限り、利害対立の生じる「大きな変化」を避けて問題の先送りを繰り返す日本の政治の欠陥はなおらない。

秘密保護法案の審議日程は従来の国会の慣行からみると異例だが、安倍首相はこのような国会の慣行を変えたいとかねてから言っていた。与党の決めた法案はすべて国会を通し、その結果をみて有権者が次の選挙で判断すればいい――彼がそういう前例をつくるつもりだとすれば、今回の「強行採決」は日本で多数決による民主主義が機能する第一歩になるかもしれない。