反米右翼のルサンチマンが日本を孤立させる

2014年01月10日 12:35

アメリカ大使館のFacebookページが「炎上」している。ホリデーシーズンの写真に、無関係な「靖国参拝の何が悪い」という類のいやがらせが大量に書き込まれ、大使館がそれを削除するとその批判が書き込まれるいたちごっこが続いている。


こういう群衆行動は、戦前のナショナリズムを思わせる。1933年に日本が国際連盟を脱退したとき、松岡洋右首席全権の帰国を国民は拍手喝采で迎えたが、日本は国際的に孤立し、軍の暴走を抑えられなくなった。「日本は列強と同じことをしているだけだ」という軍部の勇ましい言説を国民は圧倒的に支持したが、その結果はいうまでもない。外交も戦争も結果がすべてであり、「動機の純粋性」には意味がない。

日本のpoint of no returnがどこだったかについては諸説あるが、1940年の三国同盟だったという見方が多い。それは必然ではなく、近衛首相も軍の主流も日米交渉を継続しようとした。しかし松岡を中心とする外務省の「革新派」が、武藤章を中心とする陸軍の強硬派と連携して同盟を結んだのだ。

軍は日米戦争に勝てないことは知っていたが、武藤は日独伊ソでアメリカを「包囲」して戦争を回避しようとした。この「勝手読み」の戦略は、その直後の独ソ戦であっけなく崩壊したが、もう後戻りできなかった。マスコミの煽動する「鬼畜米英」に熱狂した民衆が軍より好戦的になり、近衛も東條もその流れに乗らざるをえなかった。

このように同盟関係は、国家の命運を大きく左右する。アゴラの書評でも書いたが、日本は戦後70年近くたってもアメリカの「属国」であり、それに対する右翼のルサンチマンはわからなくもない。アメリカが安倍首相を警戒しているのも、彼が祖父の志を継承する反米右翼の流れにつらなると見ているからだろう。

岸信介は日米安保の改正の次は憲法を改正し、ゆくゆくは日米同盟を解消して自主防衛したいと考えていた。これは中曽根首相など自民党右派の一貫した流れだが、現実的に可能なのだろうか。日米同盟の解消には核兵器が必要になり、そのコストは現在の駐留米軍経費の10倍以上になる。しかも実戦の経験がない自衛隊の戦力は、経験豊富な米軍にははるかに及ばない。政府の危機管理能力はもっとあやしい。

しかも日米同盟の解消と核武装は、アメリカを敵に回すことを意味する。日本が「戦争のできる国」になることをもっとも恐れているのは、アメリカなのだ。ジョン・ダワーも指摘するように日米同盟の目的は日本の無力化だったが、その目的は過剰に達成されてしまった。左翼も右翼も平和ボケで、日本はとても自前で戦争のできる国ではない。

むしろ警戒が必要なのは、アメリカに見捨てられるリスクだろう。米中関係の比重が日米関係より大きくなった今、アメリカが多大なコストをかけて日本を永遠に守ってくれると考える理由はない。大使館のページに夢中で書き込んでいるネトウヨは「日本人は外交に無知な精神的幼児だ」と世界に宣伝していることを自覚したほうがいい。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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