マスコミ自身が引っ込みつかなくなった都知事選の「原発争点化」 --- 石川 和男

アゴラ

昨日の毎日新聞ネット記事では、 来月9日の東京都知事選の争点に関する世論調査結果を報じており、下の円グラフ〔=知事選の最大の争点は?〕の通りだ。また、今日の毎日新聞ネット記事では、国政に関わる問題が都知事選の争点になっていることに関する世論調査結果を報じており、下の円グラフ〔=原発などの国政課題が都知事選の争点になることは?〕の通りとなっている。

 今回の都知事選では、“脱原発”が大きな争点になっているかのようなマスコミ報道が溢れている。これは、毎日新聞に限ったことではなく、大手報道各社の全てがそうなっている。小泉元首相が“原発即ゼロ”を叫び始めたのが昨秋で、それでマスコミが賑わい続けてきたところに、今回の都知事選で細川元首相が小泉氏の支持を得て立候補したので、マスコミ的にはますます面白くなってきた、というのが大方のこれまでの流れであろう。

 しかし、先のブログ記事その他このブログでも何回か書いてきたが、都知事には国の原発政策を左右する権限もない。東京電力の株主(保有割合は1.2%)である都のトップである都知事が、都民の代表として、一昨年値上げされた電気料金の早急な値下げのための提案をしたり、再生可能エネルギーへの取組みに関する提起をしたりするというのであれば、むしろ株主の行動として相応しい。そして、値下げ提案の一環として東電の保有する原発の運営を適正化していくべき旨を呈示することも十分あり得る。都知事選で『原発』について語るのであれば、都民の電気料金負担を軽減することを前面に押し出すべきであり、これこそが都知事選における『原発』の正しい語り方だ。

 そういう点では、都知事選の最大の争点に関する下の調査結果において、「少子高齢化や福祉」が26.8%、「景気と雇用」が23%、「原発・エネルギー問題」が18.5%という順は、有権者はマスコミ報道にそれほど踊らされているわけではないことを示しているように思われる。 

 この後、原発など国政課題が都知事選の争点になることに関する世論調査が行われているが、選挙争点の是非について調査するのは異例だ。国政と都政の区別は専門家にはすぐにわかるが、そうではない一般の有権者にはそう簡単に区別できるものでもないだろう。

 原発については、国のエネルギー政策の観点からの原発運営の在り方を都知事が左右する権限は全然ないが、都民生活に直接影響する電気料金の視点から原発運営の正常化を都が国に求めることの是非は争点にはなり得なくもない。原発以外では、例えば社会保障については、国の社会保障財政全体の規模を都知事が左右する権限はどこにもないが、都内の介護事業や保育事業に対する諸施策に係る権限の一部は都知事にある。

 というわけで、「原発など国政課題」が都知事選の争点になることは、あながちおかしなことではない。だが、これまでの報道ぶりからすると、上述のような国政と都政の関係を明確に認識した上でマスコミ各社が都知事選を報じているとはとても思えない。むしろ、都知事選の争点として原発を挙げることは不適格だと理解する前に都知事選の争点として原発を挙げてしまったので、今さら引っ込みがつかなくなったのではないかと思えてならない。

 だから、『争点が何か?』というごく普通の問いかけではなく、『争点として相応しいか?』などという奇妙な世論調査が行われ、かつ、その結果を報じるという憂き目に遭っているのではないか。こうした世論調査をしなければならないマスコミに対しては、大きな同情を禁じ得ない。

20140124毎日新聞
(出所:毎日新聞ネット記事


編集部より:この記事は石川和男氏のブログ「霞が関政策総研ブログ by 石川和男」2014年1月27日の記事(nippon.comへの寄稿記事)より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった石川氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は霞が関政策総研ブログ by 石川和男をご覧ください。