なんと韓国にソニーをオチョクられるとは!

北村 隆司

電機大手の平成26年3月期決算では日立が23年ぶりに過去最高益を更新しシャープやパナソニックも黒字に転換する中で、ソニーだけが大型赤字決算の“独り負け”となり、その再建のためにパソコン事業の売却とテレビ事業の分社化をすると聞くと世の中の移り変わりの速さを実感する。

フジヤマ、芸者、安物玩具の国と侮られ、資本財などは日本製と聞いただけで欧米先進国では相手にして貰えなかった時代に、「高品質と技術立国の日本」と言うイメージを定着させて日本の信用を高めて呉れた「SONY」には、エコノミックアニマルと言われながら貿易日本の先兵として必死に海外で戦った我々の世代は大変お世話になった思いがある。

そのソニーも技術力とブランド力への自負心がいつのまにやら「うぬぼれ」になり、その慢心が天才ステイーブ・ジョブズの率いるアップルや強い指導力を発揮したワンマン家族経営のサムスン電子を市場のリーダーにのし上げて仕舞ったのであろう。

スティーブ・ジョブズと同じ風変わりな天才井深大氏が、ソニーを引退した1977年はアップルコンピュータが株式会社として発足した年でもあり、偶然とは言えこの年にイノベーションの旗手が交替したと思うと何とも感慨深い物がある。

井深氏は「現在出来ること、近く出来ること」をベースに未来を語るソニーの技術担当者に「なぜ、そういう考え方をするのですか。そんな数年後ではない。1990年や、2000年でもなく、2010年、2020年にはどうなっているしどうなるべきだから、という考えかたをしないといけない」と当時から諭していたと言う。

井深氏の後を継いだ盛田氏がソニーを大会社の地位に引上げた功績は大なる物があるが、未来より今日の利益を考える普通の会社にもしてしまった。

そしてソニーの自負心がいつのまにやら「うぬぼれ」に変った背景には、盛田氏が石原慎太郎氏と共著で著した「NOと言える日本」に満ち溢れている盛田氏のおごり高ぶりの影響もあったに違いない。

大手格付け企業のムーデイーズが「激しいグローバル競争と変化の激しいテレビやPC事業分野で、収益性が悪化する見通しだ」として、ソニーの長期社債の格付けを投資不適格水準《ジャンク》に引き下げた直後の大幅赤字発表は、慢心したソニーの掲げた白旗なのだろうか?

政治と歴史問題で日韓の距離が広がりつつあるのとは反対に、経済産業分野では韓国のすさまじい追い上げで日韓の距離は急速に詰まってきた。

その象徴的な存在が、サムスン電子である。

1990年にソニーが世界第2位のブランドパワーに選ばれ(1位はコカコーラ)、日本のマスコミが 「日本がまもなく米国を追い抜くだろう」と得意になっていた頃をピークとして、ソニーは急速に地位を落としたが、その勢力図の変化にも気つかず「我々が最高」という錯覚に陥り「自社標準」に拘った事が災いしたと言う。

そして昨年にはソニーのブランドパワーも46位に転落し、一昔前なら相手にもしなかったサムスン電子の8位に大きく遅れをとり、栄枯盛衰の激しさの象徴的な事例を作って仕舞った。

ソニーの凋落にほくそ笑んだ韓国の大手新聞は、「日本株式会社の代表ブランド、ソニーの没落 」と言う主旨の記事を一斉に掲げている。

残念な事にこれは事実だから反論出来ないにしても、

「テレビ事業で韓国企業にに押されて没落したソニーがスマートフォン事業でもアップルとサムスン電子に圧倒され苦戦しているが、そんなソニーが再起をかけ、韓国に戻ってこようとしている。

ソニーは2011年に韓国向けに中低価格のスマートフォン「エクスペリア・レイ」を発売したが、その性能は、最新・最高級モデルのみに関心を持つ韓国の消費者の心をつかむには力不足だった。

しかし、ソニーは今回は異なると自信を抱いている。まず、エクスペリアZは韓国の最高級モデルとくらべても品質面で劣らない。むしろ一部の面では韓国製よりも高い品質を誇る。

ソニーの平井一夫社長は「エクスペリアZ1にはソニーの技術の粋を集めた」と語った。価格も749,000ウォン(約74000円)で、韓国勢の最高級スマートフォンの100万ウォン前後よりはるかに安い」等と、井深さんが聞いたら卒倒しそうな事を韓国のマスコミからオチョクリまじりで言われると「今昔の感一入」を越えた苛立ちさえ覚える。

韓国の自信と言うか過信はこれで終らない。

「金融情報サービス大手ブルームバーグがまとめた最も革新的な国のランキングで韓国が1位となったことが分かった。

韓国はブルームバーグの同調査で総合点数92.10点を獲得し、最も革新的な国に選ばれた。昨年は同じ調査で米国に続き2位だった。」

これに興奮したのか『韓日経済逆転』の夢も正夢になる可能性が出てきたなどと言う記事まで登場すると、日本のマスコミが 「日本がまもなく米国を追い抜くだろう」と報じた1990年代はじめの日本のうぬぼれの韓国版のように聞こえる。

もっとも、韓国にも自分を良く知るマスコミには:
「好調な日本経済とは異なり、韓国経済は依然凍りついており、特に企業の投資意欲と気力は回復の兆しすら見えない。

世界市場で一時日本を脅かし、あるいはわずかでも追い抜いた大企業は、円安と攻撃的マーケティングという2つの武器を駆使する日本のライバル企業に押され、成長に急ブレーキがかかり、敗退しているのが現状だ。韓国を代表するサムスン電子と現代自動車も例外ではない。スマートフォン(多機能携帯電話)、液晶テレビなど韓国が世界首位の品目ほど、日本製の素材・部品への依存度が70、80%に達する。それだけに、日本が故意に供給を中断すれば、サムスン、LG、現代自の工場がストップしてしまう、 日本経済にすぐにも追い付くという自惚れを捨て、謙虚に体制を立て直すべきだ。」と言う自己抑制的な報道も見られた。

いずれにせよ、2012年のUSドルベースで韓国に比べ一人当たりGDPは2倍強、国家の名目GDPで5倍強の経済力と2倍強の人口を持つ日本が、韓国にこれだけ自信を持たれるようでは、日本を根本的に改革しないと「韓日経済逆転」と言う韓国の夢が実現しないとも限らない。

リーマンショックを前日まで予測出来なかった事も忘れた「アナリスト(昔の株屋さん)」が、水晶玉をデータに変えた占い師の如く経営に口を挟む昨今、井深さんのような経営者は育ち難いが戦後の廃墟から甦った日本とソニーの底力はこんなものではないと信じたい。

保守的な伝統と社会に縛られる日本は、アメリカのような創造性に軸足を置くのは無理としても、日本の社会環境さえ整備すればハードとソフトを未来志向的に組み合わせてドイツが真似したくなるようなビジネスモデルを構築できる才能とエネルギーを日本の若者は持っている筈だ。

だからこそ、アベノミックスの第三の矢で抜本的な規制改革を実現し世の中の流れを変える事は、日本の若者の才能を開花させる為に課せられた現世代の義務である。

2014年2月9日
北村 隆司