コンテンツ政策、3つのお願い:自民党本部にて --- 中村 伊知哉

アゴラ

自民党知財調査会コンテンツ小委員会、ポップカルチャーとクールジャパン政策について。保岡興治、小坂憲次、福田峰之、土屋正忠、渡海紀三朗、細田健一、柴山昌彦、瀬戸隆一、白石とおる、伊藤信太郎その他多くの国会議員との議論の模様です。

ぼくのプレゼンについて補足。政治リーダーのみなさんに3つお願いがあります。


1 政府主導より、民間の後押しをお願いしたい。
クールジャパン推進機構というファンドが作られるなど、コンテンツ業界は政府の姿勢を受け止め、さらに東京五輪も招致され、活気づいています。そして既に民間では動きが出ています。
ポップカルチャー分科会の提言に沿い、みんなでつながって攻めよう、ということで、さっそく9月にパリでイベント、Tokyo Crazy Kawaii Parisを開催。自らプラットフォームを作って進出するという試みが始まりました。稲田朋美クールジャパン担当大臣にもお越しいただきました。
音楽業界も海外展開に本腰を入れています。例えば1800に及ぶほぼ全てのJ-Popアーチスト情報を集約・発信するデータベース、Sync Music Japanを構築し、海外発信しています。これは音楽業界の委託で私の研究室が運用しています。こうした動きをご承知おきください。

2 国民全体の創造力強化を。
教育の充実です。私が関わるNPO「CANVAS」は、デジタル技術を使って、子どもがアニメ、音楽、ゲーム、ロボットを作るという活動を10年以上続けており、日本はこうした活動の先進地になりました。しかし、需要は急増していますが、供給不足です。学校の情報化を進め、学校で行うべきです。教育の情報化は日本は後進国。コンテンツ政策の観点からもぜひお願いしたい。

3 政府の一体化を。
知財本部最大の功績は8省庁が前のめりに議論に参加するようになったことです。内閣・経産・文科・総務・外務・国交・農水・法務。コンテンツ政策にはさらに警察や公取も絡みます。その前に、IT本部との一体化も不可欠です。他方、これは官僚のコントロールにも限界があるということ。政治のリーダーシップをお願いしたい。フランスの文化省、韓国の未来創造科学省のような組織が日本にあってもよいと思います。

日本最大の課題は、自分のことがわかってないということだと思います。

アドビの調査によれば、世界から日本が最も創造的という評価を受けながら、自らを創造的と考える割合が最も低い、という結果が出ています。世界の評価に対し、自己評価が低く縮こまっている。日本は創造性を自ら活かす努力をすべきでしょう。それには国民の認識を変えていく必要があります。空気、です。政治に空気を換えてもらいたい。

以下、質疑です。記憶によるメモなので不正確なところもありますが。

○韓国の競争力をどうみる?
韓国は戦略が明確。金大中政権以来、1) コンテンツと家電などソフト・ハード融合戦略で、2) 海外展開に集中し、3) 政府が強力に支援。見習うべきところは多い。総合力では日本が勝るので、戦略・戦術の問題と考える。

○海外展開策は?
流通に力を入れる。日本企業はネットを使いこなせていない。また、海外の放送枠も不足。アメリカでは中国語が数十チャンネル、韓国語が13チャンネルあるが、日本語はわずか1チャンネル。

○韓国への対抗策は?
アジアでJ-PopがK-Popに押された理由を聞くと、「だって韓国の歌手は、呼べば来てくれるもん」という答えが返ってくる。要は「出て行く」ということかと。ただ、欧米などの市場は、韓国と張り合うというより、韓国と組んで、東アジア市場を拡大するという戦略もアリではないか。

○ネックは何か?
著作権処理や海賊版など課題は挙げられる。だが一番の問題は「やる気」だと考える。これまで国内市場で食えていたから海外進出にはインセンティブが乏しかった。もはやそういう状況ではない。もう一つは「プロデュース力」。コンテンツを生産する力はあるが、それを海外ビジネスに変えるマネジメント。国際プロデューサー不足は従来からの課題だが、それは必ずしも日本人である必要はない。

○経済・文化だけでなく政治にも関わるのでは?
ジョセフ・ナイ教授のソフトパワーはまさに国際政治論。コンテンツは、産業政策としてよりも、文化政策、政治の側面のほうが重要度が高いと考える。政府が関与する理由は、産業よりも文化、国内よりも国際関係に求められるのではないか。

○コンテンツを多面展開すべきでは?
戦後、ハリウッド映画やテレビドラマでコーラを飲んだりジーンズをはいたりするようになった。コンテンツを先兵にしてリアル産業がうるおうのは定番。その点、政府は自覚的になっており、経産省がコンテンツ産業と他の産業のマッチングを図っている。その機能を強化されたし。

○次のヒントはあるか?
東京五輪を活かしてほしい。五輪に集中して、海外への情報発信、国内のインフラ整備、コンテンツの拡充を進める。音頭さえ取ってもらえれば、知恵はいくらでも民間が出す。

○日本語がネックでは?
留学生は来日するときには日本語ができるようになっている。アニメをネットで見て学んでいる。その多くが著作権法違反なのが痛いけれど、そうして配信されていることのメリットもある。日本語を海外に学んでもらうことも大切ではあるが、多言語展開することも重要。また、標識やサインなどに見られる日本の表象文化は、今後、世界が映像化していく中で強みを発揮するのではないか。

○ネットには炎上のような問題もあるが?
日本は炎上大国。それはネットの陰の面だが、国民一人当たりの情報発信量が世界一であることの裏返しであり、強みの発露とも受け止められる。

○コンテンツに表れる民族性をどうみる?
ポップカルチャーやクールジャパンなるものは、最近の日本が急に発揮した姿ではなく、1000年以上にわたって培われてきた大衆文化が現代に見せている姿。これからも新しい技術が登場するたび、そうした文化が花開いていくよう、土壌を肥沃に保つことが重要と考える。

○日本文化の他の側面は?
日本在住の外国人に、自国に持ち帰りたいものを聞くと、こちらが気がついていないものを教えてくれることがある。例えば、給食当番は自ら「おもてなし」をすることを体験する優れた教育システムと評する人が多い。また、海外の警察は民衆から恐れられていることが通常だが、日本の交番は誰もが気軽に相談に向かう。これを自国に広めたいという外国人もいた。まだまだ身の回りに自分たちが認識していないものがたくさんありそうだ。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。