きょうの株価は後場になって急伸した。その原因は日銀の金融政策決定会合で、日経は「日銀のサプライズ 「倍増」に沸いた日本株」とはやしているが、これはサプライズでも何でもない。中身を読めばわかるように、それは「成長分野」に融資した銀行への低利融資枠を3.5兆円から7兆円に倍増させるだけで、200兆円を超えるマネタリーベースとは比較にならない。
この「成長基盤支援制度」なるものは、日銀の本来業務ではない政策金融である。量的緩和が息切れして株価が下がってきたが、ここで追加緩和すると消費税が上がったとき打つ手がない。そこで株式市場のバカな投資家を「倍増」という言葉でだまそう――という黒田総裁のもくろみは見事に当たったわけだ。
きょうの言論アリーナで、トバイアス・ハリスもいっていたように、こういう「成長分野」に裁量的に資金を配分する産業政策は、うまく行った試しがない。政投銀などもいらないという声が強いが、政治家にとって特定分野に金をつける財政政策は、集票装置として便利なのでやめられない。
上の図のように昨年10~12月期の実質成長率は0.3%(年率1%)と、元に戻ってしまった。それは昨年前半に集中した公共事業が切れたからだ。今度は日銀に政策金融という名の財政政策をやらせようというわけだが、いつまでもそういう「ドーピング」は続けられない。
特に問題なのは、下の図のように外需がマイナス要因になっていることだ。製造業が海外移転を進めたため、円安になると輸入価格が上がって交易条件が悪化するのだ。それが成長率の低下した原因である。株価はきょうの相場のように「円安→好景気」という錯覚で動いていたが、ようやく錯覚に気づき始めた。
去年はアベノミクスの最良の年だった。安倍首相が日銀人事で見せた決断力を、労働市場改革や原発再稼動で見せていれば、もう少しましな結果になったかもしれないが、彼はpolitical capitalを憲法改正という見果てぬ夢に使おうとしている。それはリスキーな賭けだ、というのがトバイアスの意見である。