元世界ヘビー級王者と「ガスの王女」 --- 長谷川 良

2014年02月26日 17:48

ヤヌコビッチ大統領が解任され、今年5月の大統領選に向けウクライナ情勢は動き出した。ロシアが今後、ガス供給とその価格交渉で野党勢力主導のキエフに圧力を行使してくるのは間違いないだろう。特に、ウクライナの野党勢力はさまざまな政治勢力が結集した寄せ集め所帯だから、ヤヌコビッチ大統領解任の目標が実現した今日、野党勢力内で政治権力争いが生じる危険性が考えられる。


ここでは5月の大統領選に出馬を既に表明した2人の野党政治家のプロフィールを紹介したい。一人はウクライナ第2野党ウダル(一撃)の党首で元ボクサー、世界WBCヘビー級チャンピオンだったビタリ・クリチコ党首(42)だ。

厳寒の中、キエフの独立広場に留まり、ヤヌコビッチ大統領の辞任を要求してきた。その間、欧州(特にドイツ)との強い繋がりを活用してヤヌコビッチ大統領の不正を追及してきたことは周知の通りだ。

「クリチコ氏は元ボクサーであり、職業政治家ではない。演説も朴訥であり、その言動はカリスマ性に欠ける」と指摘されてきた。武装警備隊とデモ隊が衝突して多数の犠牲者が出た時、デモ参加者に必死に「冷静」を呼びかけていた同氏の姿が印象的だった。

ただし、多くの犠牲者が出た直後、ヤヌコビッチ大統領と野党リーダーの会合でクリチコ氏が大統領と握手したことが伝わると、独立広場に待機していたデモ参加者から「裏切り者」といった罵声を受けている。クリチコ氏は野党政治家として誰と握手でき、誰とは握手してはならないか、といった政治的感覚はまだ乏しい。世界チャンピオンとして欧州のスポーツ・メディアの世界では抜群の知名度があるが、母国での支持はまだ限られている。

もう一人の大統領候補者はユリヤ・チモシェンコ元首相(53)だ。職権乱用罪で禁錮7年の判決を受け東部ハリコフの病院に収容されていたが、22日釈放されると直ぐにキエフに飛び、独立広場でデモ参加者の前で演説をし、「私は戻ってきた」と涙声で話しかけている。そして大統領選に出馬する意思を表明した。2004年のウクライナのオレンジ革命の中心的人物だ。
 
1990年代、エネルギー企業の責任者であり、短期間で巨額の富を得た。“ガスの王女”とも呼ばれ、カリスマ性がある人物だ。同元首相はサッチャー元英首相、オルブライト元米国務長官など女性政治家を尊重し、その肖像画をキエフの事務所に掲げている(ザルツブルガー・ナハリヒテン紙)。

1997年に初めて国会議員。ユシチェンコ首相(当時)時代に活躍。2004年の大統領選で不正があったとして、ヤヌコビッチ氏の大統領当選の無効を要求する国民の反政府運動が発生(通称オレンジ革命)し、その中心的リーダーの一人となった。

革命で政権交代が実現した後、ユシチェンコ大統領のもとで首相を務めたが、政策の対立などで同大統領とは袂をたち、首相のポストから辞任。07年、政権に復帰。同年の大統領選ではヤヌコビッチ氏に敗北。その直後、ロシアとの09年のガス供給協定の職権乱用罪で7年の禁固刑の判決を受けてこれまで服役してきた。

プーチン大統領は「ユーラシア連合」を掲げ、旧ソ連共和国へさまざまな圧力を行使してきた。キリギスタン、アゼルバイジャン、アルメニア、グリジアではロシアの影響力の拡大に懸念する国民の声が高まっている。それだけに、ウクライナを失えば、その影響は他の共和国にも波及し、ドミノ現象を誘発する、という恐れがプーチン大統領にはある。

5月の大統領選で誰が大統領に当選するとしてもロシアからの圧力に屈せず、親欧路線を堅持していくことは難行だ。クリチコ氏はドイツのメディアの質問に答え、「自分のリングはここだ(独立広場)。ここでの戦いはリング上よりハードだ」と語っている。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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