「中国バブル」は軟着陸できるのか - 『中国停滞の核心』

池田 信夫
中国停滞の核心 (文春新書)
津上 俊哉
文藝春秋
★★★★☆



ひところは「アメリカのGDPをいつ抜くか」が論じられた中国経済だが、最近は限界が見えてきた。「シャドーバンキング」の運営する投資信託の破綻が話題になり、バブル崩壊の噂も出てきた。著者は中国ブームには慎重だったが、最近の「中国経済崩壊」説にも批判的だ。

シャドーバンキングというと海外のオフショア市場に逃避している資金のようだが、中国の場合は国内のノンバンクである。銀行の資金供給が不十分で金利規制が強く、高利で大量の資金を必要とする産業に回らないため、投資信託の形で資金をつのり、高利で返済する。金利は1~2年物で10%以上と高利だが、供給は不足しているという。

これは投資意欲が旺盛なためではなく、投資の収益が出なくなり、銀行から借りた資金が返済できないためにシャドーバンキングで高利の金を借りているのだ。このように新規資金が借金の穴埋めに使われるため新規投資が増えず、資金繰りに行き詰まって破綻する投信が出てきた。

中国の成長を支えていたのは、農村の膨大な過剰人口が都市部に移動することによる労働人口の増加だったが、労働の絶対的な供給過剰が解消される「ルイスの転換点」はすでに通過したという。つまり賃金が生存最低水準に張り付いて労働市場が機能しない状態が終わり、労働生産性に応じて賃金が上がる時代が来たということだ。

こうした変化を受けて、2013年に開かれた中国共産党の三中全会では「市場に資源配分における決定的な作用を働かせる」という表現が出てきた。これは今までのように政府が市場をコントロールするのではなく、負の側面も含めて市場にゆだねるという考え方だ。政府は悪いときは国営企業を助けるがいいときは何もしないので、不健全な企業が延命されてしまう。これをやめようというのが李克強首相の「リコノミクス」である。

本書は多くの統計を使って中国経済のあまり知られていない実態を描いているが、後半はやや散漫だ。いま日本が靖国参拝のような形で中国との紛争の種をまくのは危険だが、こじれた日中関係はどうすれば正常化できるのだろうか。来週の「言論アリーナ」では、津上氏をゲストにまねいて話を聞く予定だ。