2/21日、公開掲示板にて、NY州金融サービス局の担当者が州が考えるビットコインの規制方針について、ユーザーとのやりとりがあった*1
マネロン防止と消費者保護という目的と、規制の手段のバランスを熟慮して、建設的なやりとりがされており、極めてプロフェッショナルな態度だ。多くの方によんでもらいたく。やりとりの抄訳を掲載する。
また、今回のMt.Goxのニュースをうけてロースキー監督官は、「今はビットコインへの規制が何も無い状態だが、注意深くバランスのとれた方法で規制を加えることによって、ビットコイン業界は、長期的に発展することができるはずだ」*2とインタビューで述べている。
いままでは政府の関与をなるべく受けないことが望ましいというのがビットコイン関係者の思想であったが、一連の事件をうけて、適切なルールのもとで業界の発展を目指すプレイヤーが増えるものと思われる。
<以下掲示板でのやりとり>(翻訳は、デジタルマネー協会の小野英樹さんによるもの。感謝)
NYDFSは過去7ヶ月の間、仮想通貨の規制についてのガイドライン作成に対する調査を行ってきました。(訳注 2014年2月現在)その一環としてニューヨークで仮想通貨についての公聴会を2014年1月に行いました。予想を超えて117カ国から14000人以上の人にオンラインで視聴していただく事ができました。
2014年内にはこうした事実調査をふまえ、仮想通貨に対する規制の枠組みをニューヨークで提示できると考えています。早い段階で規制の方針を明確にできれば、事業者にとっても取り組みが行いやすくなると思います。ですが、このプロセスは単純ではないため、焦りすぎて、将来意図しない問題を起こすのは本望ではありません。多方面からのフィードバックを得て、しっかりした近代的で前向きな決断を下していきたいと思います。
Q1. 規制に沿うための準備に億単位の資金が必要となるため、小企業や個人トレーダーはどうすれば法律に従えるようになると考えていますか?
A1. 大銀行のために作られた法では小さな銀行に対しては効率がよくありませんでした。その後の法の修正により、問題の一部は解決できました。仮想通貨に対する規制に関しても、そこの点についてしっかり考える必要があると思っています。
Q2. 倫理的に個人に金銭上のプライバシーを持つ権利はあると思いますか?各個人は政府に金銭のやり取りの記録を明かすべきだと思いますか?
A2. 金銭上のプライバシーには重要な価値がある思います。自分もネット上で何かを購入後、Eメールでその情報に基づいたスパムを受け取るのは好きではありません。ですが、一方でテロにつながる資金洗浄等の防止のためにいくらかの個人情報を記録する事は重要な事でもあります。うまい具合に、必要な情報のみを記録するようなのが望ましいですが、その点については検討段階です。
Q3. Bitcoinに関連するビジネスと取引を停止、口座を閉鎖している銀行があり、売り手側にとって弊害となっていますが、これから提案される規制によってこの部分は対応されますか?
A3. 個別の銀行の対応については分かりませんが、新しい技術である事、価値の不安定さ、犯罪要素に使われていた等が理由では無いでしょうか。これから作成されていく規制により、銀行もBitcoinの扱いがしやすくなると思います。
Q4. なぜ資金洗浄が規制側の優先事項なのでしょう?(昔のケースで7700万の記録の内3000件しか資金洗浄の該当が出てこなかった。)
A4. DFSは起訴でなく規制をする立場なので、金融システムがうまく回るようにする義務があります。テロは資金洗浄無しでは活動が制限されるため、そこにそれに対する規制の意味を見いだしています。非効率な規制は良く無いですが、銀行側で”客を知る”ルールは重要と思います。大切な事は、事業者が規制に対応するのにかかるコストを上げすぎずに、効率的に資金洗浄を止める事だと思います。
Q5. 公聴会で”規制側の選択肢は資金洗浄と革新どちらを容認するかで、資金洗浄を先に潰すようにしている。革新全てをおさえつけないために資金洗浄等をはびこらせるのは社会にとってよくはない”と言っていましたが、内容に懸念を感じますが、本当にそういうことを考えていますか?
ウォール街の銀行全てを規制した方が早いんじゃないでしょうか?
A5. 例えでしたが、取り締まりと革新を両立させるバランスが重要です。資金洗浄がどれだけテロを助長しているかを甘く見てはいけません、世界中のテロリストが多く利用する手口です。そこがきっちり抑えられれば、革新技術を伸ばして行く方向をじっくり考えることができます。将来Bitcoinの技術がもたらす可能性にワクワクしています。
Q6. 質問が3つあります。
1. 米国内でエクスチェンジを立ち上げるのには47カ所で金融取引のライセンスの取得が必要となり、立ち上げの妨げとなっています。米国内にエクスチェンジが無い事を考えると、現法律では革新を国外へ追いやっているように見えますが、どう解決すればいいと考えていますか?
2. Coinbase等の正規のサービスとBitcoinの取引をしただけで個人が警告を受けたり、場合によっては口座が凍結されたりするケースがありましたが、このような仮想通貨の革新に対する妨げを法的状況を明確にする事によって取り除く事は考えていますか?
3. 前の秋の公聴会でFINCENとシークレットサービスのメンバーは仮想通貨の犯罪を取り締まる事が可能だと示していました。Silk Road再発の阻止とCharlie Shremら(訳注 : Bitcoin Foundationのメンバーで、Silk Roadと関わった形跡があることにより1月に逮捕)を捕まえた事により、前述の事が可能であるのは分かりました。これについて最近米財務長官のJack Lewが発言した内容についてはどう考えていますか?
「どのような決済手段だとしても、同じルールが適用される。仮想通貨でもそれ以外でも、不正利用は許されない。」
A6.
1. 今は状況が不透明なため国外にいるのかもしれないが、米国内に今後はエクスチェンジができる事を期待している。
2. 規制により銀行はこの革新を止めるのでなく、利用する方向に持っていくように考えると思っている。
3. Lew氏は資金洗浄はどの経路であろうと本気で取り組むべきだと言っていると思う。
Q7. 事業者が”複数鍵トランザクション”(訳注 コインの移動のために複数の鍵を必要とさせる手法)を行う際に、必要な個数の鍵を持っていない場合、これは金銭取引業務に該当するのでしょうか?自分の考えでは、資産の移動ができないため、それに当てはまらないと思っています。blockchain.infoも同様の道理で金融取引業務と見なされないようにしていると思います。
A7. これについては、調べておきたいと思います。金融取引法を仮想通貨に適用する際のチャレンジだと思います。
Q8. 国連は毎年100兆円以上、Bitcoin市場の100倍以上、がメジャーな金融システムの中で資金洗浄されてると報告しているが、現行の銀行のシステムに注力するよりこちらの新技術に目を向ける必要はあるのでしょうか?
A8. その二つが別々の存在だとは思っていません。どこで起ころうと資金洗浄については全力で取り組んでいるし、9/11以降、自分はテロ行為に対する検察官として働いていました。全ての取引形態の資金洗浄について注視しています。私たちの仕事についてはCoinDeskでも取り上げられています。
http://www.coindesk.com/ben-lawsky-friend-foe/
Q9. 税法には当局が違法かどうか決めますが、”防衛的地位”を利用すれば、罰金は無く、該当する税のみを収めればよくなります。ですが、資金洗浄防止法ではやったかやってないかという2択しかありません。Bitcoinを使った業者はデジタル通貨に関する法律が無い中でどのように罰則を恐れずにビジネスをすることができますか?
また、法の整備を待っている間に海外で事業を始めるのに比べて出遅れが生じないですか?
A9. そのような理由が早いうちに法規制を敷きたいとしている理由です。ただ、急ぎすぎて失敗してはいけないので、いろんな声を聞きたいと思っています。ここに投稿したのもそのような理由があります。
Q10. 仮想通用のライセンスを発行する事によって、取り締まられていないBitcoinの転送をどれだけ効率的に止めさせられると思いますか?そのライセンスが必要であれば、顧客用にキャッシュライセンスもあったほうがよいのでは?(訳注 ちょっと何言ってるか謎です)
A10.今は 現金取引を行っているウェスタンユニオンのような事業者にライセンスを発行しています。これはインターネットができる前に作られたものであるため、仮想通貨の構造に則ったものを作るべきか、既存のものを当てはめられるかを検討しています。
Q11. Bitcoin好きの多くの人は仮想通貨は止められない存在になり、それに抵抗しようとしている中国やロシアは最終的にはどうしようもできなくなると考えていますが、その点についてどう思いますか?
A11. 無くすのは難しいと思います。将来のどうなるかは分かりませんが、Bitcoinは資金洗浄等マイナス面が取り締まれれば、強力で将来性があると思います。
Q12. 必要以上に締め付けを行わずに事業者や顧客、革新がどこかにいってしまわないようにしてもらいたいです。
A12. 理解しています。了解です。
Q13. 大物の逮捕やSilk Roadの閉鎖を見る限り、現行法で対応できている気がして、これ以上は不要な気もしますが、どうでしょうか。
A13. 言いたい事は分かりますが、これらに対応するのはやりにくかったというのが法執行側からの見解です。私たちが作る規制が助けになれると思っています。金融取引を行っている事業者については、ライセンスを発行するという形で規制していきたいと考えています。
Q14. Bitcoin持ってますか?今買う、買わないという理由はありますか?
A14. 持っていません。ただ、Preet (Bharara)(訳注 Silk Roadから押収したBitcoinをオークションに出す件に関わっている弁護士) がいくらかくれると聞いています!(訳注 冗談)
Q15. 海外の規制者についてアドバイスはありますか?
A15. 他の規制者についてアドバイスを出せる立場ではありませんが、仮想通貨の潜在的問題のみでなく、良い点についてもしっかり勉強した事はとても重要だったと思っています。
Q16. ATM設置は現行法に則っていれば安全ですか?その事について規制するか、法的に明確にすることはありますか?今後州が考えを変え、取り締まってしまったりして投資者が不安にならないかという事です。
(訳注 別の質問者)現在のATMはほとんどUSD -> BTCなので、ATMというより、自動販売機のようなものです。
A16. 今は一歩ずつ固めてっています。ATMについては、まだ答えはありません。早い段階で答えを出せるようにしていきます。
Q17. キプロスにも耳を傾け、しっかりした規制者がいればよかったと思います。あなたのような周りの声を聞きに行き、革新的な考えを持つ人がいるニューヨークは幸運です。ニコシアより。(訳注 キプロスの首都)
A17. ありがとう。しっかりやりたいと思います。
Q18. 途上国のBitcoinに対する取り組みや可能性についてどう考えていますか?我々の銀行がBitcoinは恐れるものでなく、ためになるものだとどのようにすれば思わせられるでしょうか?
私は中東・アフリカの北部に住んでいて、ほとんどの人が現金思考で67% (5億人以上)が銀行無しで暮らしています。Bitcoinはこれらを変える事ができると思っています。
A18. その事については、Bitcoinは素晴らしい可能性を秘めていると思います。多くの人は世界の多くの場所でちゃんとした銀行設備が無いかを知らないと思います。
また、海外送金のコストを大幅に下げられると思います。何千人ものニューヨーク市民が毎日母国に送金している事にとって大きなインパクトがあります。
Q19. あなたが以前就いていた職(訳注 検察官)について、考えの偏りが無いか気になっています。資金洗浄と何年も戦っていたら、それが何を置いてでも潰すべき存在と考えないでしょうか?外部意見を取り入れてくれる事をうれしく思っています。そのような意見を取り入れ、偏った考えにならないようにしてもらえればと思います。そうしないと、思い描けない考えもあるかと思います。
A19. 確かに我々は皆過去の経験から、偏りを持ち込み得る事を理解する必要が重要だと思います。資金洗浄については、どれだけ危険かを理解しています。その一方で将来仮想通貨が恩恵をもたらす可能性があるのも分かっています。資金洗浄の対策を施す事は仮想通貨の将来にとって評判上、実務上で得策になると思っています。
Q20. いくらかの人はCharlie Shremを公聴会前日に逮捕したのは、DFSによるBitcoin事業家に対する威圧だったと捉える人がいます。例えば、彼をこっそり連れて行くとか、電話で出頭を促すとか、そうではなく、空港から連れ去って逮捕していました。公聴会にとってこの出来事は関係していましたか?またDFSはこのような戦略的動向を行うのですか?
A20. ここははっきり言っておきますが、全く違います。
Q21. Bitcoin Tumbler(訳注 複数のコインを混ぜ合わせた後に取り出す事により出所を分かりにくくするサービス)を取り締まるのは意味があると思いますか?また、それをする事により、個人の金銭的プライバシーが犯されると思いますか?また、規制を取り入れる事により、tumblerを閉め出し、違法なtumblerを追う事ができると思いますか?
A21. Tumblerについては注視していて、いい点、悪い点についての報告があります。答えは無いので、意見を聞きたいです。公聴会ではtumblerの利用は法的取り締まりを大変にしていた点が言及されていました。プライバシーとして重要な点もあるため、ここについてもうまいバランスを作るのが必要だと思います。
Q22. Bitcoinのプロトコルがまだ歴史が浅いのと同時にtumblerの技術についても同様です。将来は分散型のtumblerが出現し、中央サーバー無しで、ユーザーがコインの追跡をしにくくなるかもしれません。オープンソースでVPNやTor(訳注 匿名ネットワーク)上で誰でも使えるようになりますが、法的に禁止してしまえば、その技術の恩恵を受けられなくなりますが、悪意的な使い方としては残ってしまいます。このような分散型アプリケーションは金銭のやり取りだけでなく、技術としての規制も視野に入るので、私たちのような開発者にとっては困った事になるかもしれません。
A22. 良い点です。今後考察していこうと思います。
Q23. 規制する中で、事業者が育っていくようなバランスをどのように取っていく考えですか? CoinMKTより。
A23. そこが毎日我々が挑戦している大きな課題だ。
Q24. カナダはすでに規制を敷いて、良い状態にあると思います。アメリカはカナダと同様にメインの規制対象が入金先業者であるようなルールを敷く事は可能ですか?また、特に私たちカナダをベースに仮想通貨に取り組んでいる人達のために、米国でもカナダと同様の規制を敷くという取り決めをかわし、各国で規制のずれが発生しないようにできますか?
適切なバランスを保つのが重要だと思いますが、カナダは仮想通貨を所有、トレード、採掘する人が納得するバランスでやれています。ロシアはやりづらい方向へ向かっています。適切な規制はユーザー保護にもつながるので反対ではありません。透明なプロセスで規制の検討を行ってほしく、できる限り縛りが無い方が良いと思っています。
A24. カナダがどのような取り組みを行っているか調べたいと思います。他者からいいとこ、悪いとこを勉強するべきだと思います。
Q25. ”オープンソース規制”ありがとうございます。いくつか質問があります。
1. Bitcoinとその技術は将来世界を良くすると思いますか?
2. それらが成功してほしいと思いますか?近い人は似たような考えですか?それとも一般的にはもっと低い期待度ですか?
A25.
1. いろんなレベルで可能性を秘めていると思います。Athey教授が公聴会で言ったように技術のエクスパートでも将来どうなるかは分からないと言っています。Bitcoinには(資金洗浄が規制できれば)それ自体とその他の支払いシステムの技術の改善に期待ができると思っています。この点については学んでいくうちに色々理解するようになってきました。DFSの人達の考えも変わってきています。
*1 http://www.reddit.com/r/IAmA/comments/1ygcil/as_requested_im_ben_lawsky_superintendent_of_the/
*2 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140226/k10015554531000.html