紙とネット、校閲力の差はまだまだ

2014年03月08日 07:00

先日、BLOGOS編集部の依頼で、都知事選のネット選挙を振り返る対談企画に参加してきた。うさみん衝撃的な発表をしているので、本編は公開後にお楽しみに。。。と予告はこれくらいにして、うさみんや編集部の方々から、「ネットメディアへのダメ出し」「新聞等の既存メディアの内輪話」をもっと書いてほしいと要望があった。


●ネットは編集者を雇うのも大変
まー、確かにブログ論壇界隈では「マスゴミの報道はなっちょらん!」的な既存メディアへの悪口を書く方がPV伸びるんだろうけど、この1年余り、有名なネットメディアのスタッフの皆さん方とも本業や自分の言論活動のことで色々やり取りさせていただいて、業界的な課題が見えてきたことも事実だ。というわけで、ご要望にお応えして早速指摘してみよう。

一番わかりやすいのは、編集スタッフの「校閲力」ですね。そもそもネットメディアの場合、執筆者の投稿をそのまま掲載する媒体もあるけど、編集者が介在しているところ自体が少数派だ。よほど過激な表現を丸く書き直したり、明らかに事実誤認を修正する程度はあっても、大幅に改稿することは稀だ。これは編集スタッフが少数という物理的な理由もあって、大手であるBLOGOS編集部ですらもバイトを含めて数人体制で日々回している。ハフィントンポストも確か8人体制だったはずだが、現場取材の記者等を除くとエディターは2人とかじゃないかな。つまり1つの原稿を面倒みるのに注力できる時間が極めて限られる。文章を大枠で直す編集者ですら、そういうじり貧の体制でやっているのだから、新聞や中堅以上の出版社のように校閲専門のスタッフを置くことは困難になるのは自明の理だ。

●校閲スタッフの凄さ
最近は新聞どころか、雑誌も読まないブログ読者が多いようなので、校閲スタッフの凄さを紹介しておこう。校閲というと、誤字や脱字を探す人という程度の認識しか持っていないかもしれないが、その程度の作業しかやらないのであれば、ワードの「校正」機能といった機械的な対処で済ませばいいし、活字好きで間違い探しの得意なアルバイトの学生や主婦でもやれてしまう。新聞社や老舗出版社で働く「プロ」の校閲記者は違う。漢字検定1級保持といった校正上、必要な知識がずば抜けているだけではなく、リサーチャーとしての能力が現場記者に匹敵する。

※ネットで話題になった新潮社の校閲(石井光太氏twitterより)
140308校閲

もちろん、リサーチと言っても机上でのことに限られるが、文献、過去の記事、ネット上の公開情報等々、身の回りで可能なあらゆる資料を徹底的に当たって確認する。先月、ネット上で新潮社の小説の校閲の凄さが話題になっていたが、あれは小説で描写される日付の実際の月齢と照合していた(詳しくはまとめサイトをご参照)。

●校閲に記者生命を救われた筆者の体験
私自身も新聞社時代、校閲の皆さんには何百回と危いところを助けていたただいた。たとえばスポーツ記事は、数字が頻出するほど説得力を増す。高校野球の記事で「2日の連投にもめげずに好投したエースの田中君」と書くのと、「前日までの2日間で276球を投げていたが、それでも田中君は好投した」と言うのでは伝わる重みが違う。それで記者は数字を多用したくなるのだが、甲子園で予選から決勝まで何試合も一人で投げた投手の球数を全部計算し、それも締切の限られたドタバタの中で文章の構成も思案する“片手間”でやるとミスするリスクもある。こういう時、校閲記者は試合の記録を一通り計算して、ちゃんと裏取りする。

事実関係のチェックも半端ではない。あれはいま思い出しても本当に恥ずかしいが、記者4年目のことだったろうか。八王子支局に勤務していたとき、週末の街のイベント記事で、地元のお寺の行事をサクッと取材して原稿を早々に書き上げた。事件も起きそうになく夜勤当番でもなかったので早く帰ろうとしたところ、支局のデスク(原稿を直す人)を務めていた先輩記者に本社の校閲記者から“ご注進”の電話が。何年か前の記事と照合したところ、いま貰った記事にある行事の趣旨が違っているのではないか?というのだ。うひー(汗)。まだ20代の若造で休日出勤でタガが緩んでいたんですね。不幸中の幸い、平日にデスクを務める怖い鬼デスクじゃなかったので優しくたしなめられて、電話で再取材。書き直して事なきを得たが、校閲のスクリーニングの凄さを実感した出来事だった。

●メディア流動化で校閲の運命は?
もちろん、ネットメディアだってリソースに余裕があれば校閲専門のスタッフを配置したいはず。誤字脱字を減らす品質管理だけでなく、オフィスの中でも出来るかぎりの裏取りを経た記事が信頼向上につながり、媒体の価値を上げていくというものだ。先日、ハフィントンポスト発で「アンネの日記」を破られる事件がスクープされたが、ネットメディアの社会的影響力が今後も増すことを考えると、広告収入のアップ等で、そういう校閲スキルの高い編集スタッフを雇えないか真剣に模索する段階のようにも思える。

しかし、その一方で紙媒体でも、校閲スタッフは編集部のなかでも、経費削減の折にはリストラの対象にもなりやすい。新聞社も、地方版はかなり昔の段階で首都圏を除いて専従スタッフは置かなくなり、支局のデスク、記者たちが自力で校閲している(その分、若い記者がいい加減な記事を書いて訂正が増えるリスクは高い)。新聞業界の不況に出口がみえない中、近年は整理・編成部門(レイアウト担当)を分社化するような動きもあって、それなりの待遇に裏付けられた編集責任を持つ校閲スタッフを維持できるか雲行きが怪しくなっている。印刷後に訂正が効かない紙媒体のプレッシャーのもとで鍛えられた校閲人材が、ネット媒体でも登用されるのかどうか。紙、ネットを問わず、記事のクオリティー、媒体の信頼性を占う上で、注目していきたいと思う。

あー、また長くなってしまった。では、そんなところで。ちゃおー(^-^ゞ
新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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