オウム真理教を育んだもの --- うさみ のりや

2014年03月22日 07:33

土谷正実(つちやまさみ)という死刑囚がいます。

オウム真理教の幹部(第二厚生省大臣)としてサリン製造の他、VXガスやLSDの合成を主導した人物です。彼は高校時代まではいわゆる文武両道の優等生で良い成績を収める一方で、ラクビー部でも活躍し、大学は順当に筑波大学に合格しました。入学すると憧れのラクビー部に入部したのですが、一週間もしないうちに選手として再起不能な大けがをします。そこで人生初の挫折を味わうわけですが、その怪我からの回復過程で応援してくれた女性に精神的に依存するようになり、彼女の心が他の男性に揺れ始めると半ばストーカーとなってしまいます。結果として彼女との関係は破局し、土屋は孤独にネガティブなスパイラルにはまっていきます。


その後の大学生活はバブル経済に浮かれる社会になじめず、就職を避け大学院に進むことを選びます。研究に没頭する毎日でしたが、就職先に乏しい農林学類ということもあり自分の将来について不安を感じるようになっていたところで、彼は友人に招かれてオウム真理教主催の「超能力セミナー」に参加して神秘的体験を味わいます。自分の社会における存在のちっぽけさ悩んでいたところに、新しい可能性を示されかつ「初めてなのにそんなことができてスゴい、きっと麻原尊師のお導きだ」などと煽られたことで「この道を追求したい」と思うようになり、教団に入信します。

そして4ヶ月間の在家修行の後に教団側から「尊師が君の出家を望んでいる」と言われて家族の縁を切ってオウムの施設に出家することを勧められると、当初は断ったものの教団へ傾倒するうちに借金がかさむようになり教団への依存を深めるようになります。当時オウムの危険性は社会に知られ始めており、オウム真理教信者である土谷は当然大学の研究室の中で白い目で見られ始めて居場所が無くなってきましたが、そうすると彼は反発してますます教団への依存が深まっていわゆる「ハルマゲドン」のような思想を真に受けていくという負のスパイラルが生まれ始めます。

こうして土谷はオウムにのめり込んでいくわけですが、心配した身内は一時土谷を教団から奪還して寺に隔離して保護しました。そうすると直ぐにオウム真理教の信者がその寺の周りを囲んで「土谷くんを帰せ~」などとわめきたて騒ぎを起こしつづけました。この時土谷は一時的にオウム真理教から脱会する意志を示しますが、最終的に自らの意思でオウム真理教の元へ返り出家してしまいます。

そこから先は麻原の言うがままにサリンを製造し、転落するように地下鉄サリン事件にまで至ることになりました。

一を持って十を知るようなことをいいますが、土谷正美の例を見て私自身が思うのは「失敗を悪と見なし、失敗した人には再チャレンジの機会がなかなか与えられない。」という社会がこの事件を引き起こす背景になったのではないかということです。挫折から立ち直れず社会の勝ち組ロードから乗りそびれた土谷に取ってオウムは自分を受け入れてくれるさぞ温かい場所に思えたことでしょう。

少し大ざっぱにまとめますぎかもしれませんが、「新卒一括採用 → 社内育成システム → 長期雇用 or 転職によるキャリアアップ」という道に乗り損ねた負け組達の怨嗟が歪んだところに力を向けて、世の中を引き裂くという構図は黒子のバスケ事件にも、秋葉原の無差別殺人事件にも共通した構図のように思えます。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20140315-00033576/

こうして「きちんとした正社員」と「そこに乗りきれなかったブラック企業社員、非正規雇用者、ポスドク」といった人々の間で社会が引き裂かれていく姿は健全ではないと思うのですがいかがでしょうか。個人的には若年層の非正規雇用率が4割を超えた時代に、一部の正社員の権利が過度に守られてそれ以外の人達が割を食うような雇用法制はあまりよろしくないと思うのですが、政治的にはそこに手をつけるのはサラリーマンという巨大な票を失うことに繋がりアンタッチャブルな領域なのでいつか革命的事態が起きるまで変わらないようにも思えます。。。。。あっこういう発想が危ういのか、危ない、危ない。制度はあくまでも民主主義のプロトコルに乗って変えていかなければなりませんね。

ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「うさみのりやのブログ」2014年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はうさみのりやのブログをご覧ください。


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