デフレは賃下げの結果であって原因ではない

2014年03月22日 10:18

このごろアゴラもNewsPicksでiPhoneに配信され、コメントがつくようになった。きのうの記事に竹中平蔵氏から次のようなコメントをもらったので、お答えしておこう。

意味不明。論理の体系見えず。具体的対案なし。天に唾してる。


「意味不明」なのは話をはしょったためかもしれないが、私の「論理の体系」は、記事にも書いたように、おおむね吉川洋氏と同じである。すなわちデフレは名目賃金の低下の結果であって原因ではない。それは右の図で明らかだろう。

グローバルな単位労働コストの収斂によって先進国の賃金は下方圧力を受けるが、日本では賃金交渉力の弱い非正社員が増える一方、中高年社員の賃上げも抑制されたため、名目賃金が下がった。これが日本だけデフレになった原因である。欧米では、名目賃金が上がると同時にインフレになった(実質賃金はほぼ同じ)。

これを黒田総裁は逆に見て「デフレになったから賃金が下がった」と思っているようだが、そんな因果関係はありえない。デフレの始まる前から賃金の低下は始まっているからだ。これを時系列データで見てみよう。


賃金と物価(1990年=100)と失業率(右軸)出所:厚労省・総務省

90年代の最初から失業率が上がり始めたが、名目賃金も物価も上がっていた(欧米型だった)。ところが金融危機で失業率が急増した98年から賃金が下落に転じ、ここから1年おくれてCPIがゆるやかに下がり始めた。失業率は2002年をピークにして下がり、最近は4%台で推移している。これは先進国できわだって低い。

このように2000年代に名目賃金が下がり続けたことが、日本だけデフレになる一方、失業率が低い原因である。では賃金は何で決まるのだろうか。吉川氏によれば、それは日本独特の「公正分配」の原則で決まる。雇用を守るために企業収益と賃金の比率が一定に保たれ、賃金が業績に応じて上下する一方、失業率はあまり上がらない。

図からもわかるように、90年代前半のCPIの上昇幅はおおむね賃金の半分である。これは賃金コストが価格の60%を占めるからだ。インフレにすれば「賃金も物価も緩やかに上がる世界」が実現するという黒田総裁の話は、因果関係を逆に見ている。

統計からわかるのは、相関関係であって因果関係ではない。因果関係を特定するにはミクロ的なメカニズムの検証が必要だが、吉川氏はそれを分析してデフレが原因ではありえないことを明らかにしている。竹中氏も読んでいるはずだが、この「論理の体系」のどこが「意味不明」なのだろうか。

なお私の記事は対案を書いたものではないので、「具体的対案」がないことは事実である。「天に唾する」というのはどういう意味かわからないが、私の「論理の体系」に問題があるとお考えなら、アゴラで反論していただきたい。投稿は歓迎する。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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