イエレン議長が就任後初めて仕切ったFOMCの会議が3月19日終わり、終了後の記者会見で記者からの質問の答えが大きな波紋を呼び込みました。今日はこの辺を切り口に議長発言の重みについて考えてみたいと思います。
初の女性議長、そしてわかりやすく、親切で人間的にも高く評価されているイエレン議長のFOMC会議は当然ながら注目が集まりました。その結果、引き続き量的緩和を縮小するほか、これまで金融政策見直しの目安として6.5%の失業率としていたもののその具体的数字の表記を削除するなどの新たなる「動き」も見られました。
量的緩和について秋ぐらいには終えるとし、相当期間を置いて短期金利の引き上げを想定しているとしました。その後の記者会見で議長がこの「相当期間」を6か月ぐらいと言ってしまったことが多くの市場参加者が見込んでいた引き上げ時期の予想より半年以上短くなりそうだということで市場は震撼することになったのです。
ではこの「6か月発言」ですが、どこまで真剣に受け止めるべきか、という点ですが、私は彼女の描いている相当期間の一般的定義が6か月であるものの短期金利を上げるかどうかを決める尺度とは別物であると考えているとみています。つまり、6か月だけが独り歩きしているということです。
まず、量的緩和の終了時期についてみてみましょう。
今年のFOMCの予定は4月、6月、7月、9月、10月、12月のあと6回です。現状、量的緩和の縮小は毎回、100億ドルずつ減らしており、今回の決定で550億ドルに減っています。仮に市場で予想されている毎回100億ドルずつ減らすペースを続ければほぼ今年いっぱいかかってしまい、秋に終了する計算にならないのです。
仮に9月に終了させるためには一回当たりの縮小幅を150億ドル程度に積み上げなくてはならず、FOMCとしてそこまで積み上げるほど景気が鮮明に回復するのかという予想は現時点でたてられないとみています。失業率が想定上に低下しているのは労働参加率が歴史的低水準になっていることが主因であると考えられ、アメリカの景気判断はあらゆる角度から検証しなくてはなりません。個人的には今後、年後半に向かって景気回復はやや勢いを落とすとみており、量的緩和終了時期については9月とすればそれはかなりの最速ケースで実質的には10月か12月頃に繰り下がるのではないでしょうか?
次に短期金利の引き上げについては実需の資金需要がどれ位あるか、それを検証すれば金利を引き上げるほど民間部門の資金需要は高くないという判断をするかもしれません。量的緩和は洋の東西を問わず、貸出に回っておらず、仮需や投資、投機に回っているとされ、短期金利引き上げのハードルはさほど低くないとみています。アメリカも残念ながら日本が辿ったバブル崩壊後のデフレ現象の罠からは簡単に抜けられないとみています。結果としてアメリカが短期金利を引き上げるのは早くても2015年半ばで実際には後半が睨みどころではないかと考えています。
ところでイエレン発言に対して日銀の黒田総裁は更なる緩和期待をどうするか、厳しい選択に追い込まれていると思います。ご本人は経済指標を判断して、ということかと思いますが、政府筋から一定の圧力があるはずです。それはアベノミクスパワーがすでにガス欠状態になっており、外国人投資家を中心に失望感が漂っています。安倍外交も今後、比較的厳しい話が多くなってくる中で株価、為替対策として「クロちゃん、どうにかしてよ」と泣きつく可能性は高いかもしれません。
それこそ日銀の独立性との兼ね合いでありますが、黒田総裁も安倍首相に頼まれればむげには断れないでしょうから株価、景気の動向を見て意外性をもって何かされる可能性は否定できないかもしれません。
中央銀行のドライブとは世界の辣腕投資家との対話と言ってもよく実にやりにくいと思います。イエレン議長にしてもそのデビューはほろ苦いものだったかもしれません。だからこそ、投資家や市場参加者もその発言にあまりにも振り回されてはいけないということではないでしょうか?
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。