意識高い(笑)系に送る「あほロワー」な生き方

2014年04月03日 07:45

新年度になると、妙に「意識高い」系の言説がリアルでもネットでもはびこる。しばらくアゴラを留守にして東洋経済オンラインにお邪魔していたら、新たな「グローバルマチョ子」が出現して常見のアニキをdisっていたな。電車の中吊りをみれば、東洋経済本誌には「激変!!東大生の就活」という特集が組まれて、東大生が急にベンチャー志向化している、と煽りまくっている。これら一連の事態を見るにつけ、「普通の」新入生、新社会人が今年も“搾取”されようとしているような気がしてならない。


◆高い意識は大切だが、身の丈を忘れるな
もちろん、時には強制的、あるいは自発的にストイックに追い込まなければ、見えない風景がある。そういえば、阪神の西岡剛選手がロッテ時代の4年前、「ゾーンが見えてきた」と語っていた。その年、彼は自身初の首位打者を獲得。当時、自分を含む番記者たちが打撃好調の心境を尋ねた際のコメントだ。かつての彼は遠征先での夜遊び、女性タレントやアスリートとの交際の話題が先行する「悪童」だったが、メジャー移籍の話も浮上したその年は生まれ変わったように「意識高く」打撃改造に取り組んで結果を残した(先日の巨人戦での負傷、一日も早い回復をお祈りします)。

しかし、世の中は皆が西岡選手のように才能豊かな「できる人」ばかりではない。いや、むしろ彼のように一軍のレギュラーで活躍し続け、1億円を超える年俸を手にする人は一握りの超エリートだ。プロ野球には今季、76人の新人が12球団に入団したが、それと同じだけの数の選手たちが昨秋、戦力外通告を受けてグラウンドを去っている。しかも近年ではほかに育成選手として年俸240万円といった薄給で挑戦する若者が何十人といる。会社でいえば非正規雇用のような存在だ。その大半も一軍の舞台を踏むことなく切られる。

厳しい世界とは分かっていてもプロ野球に飛び込む若者が多いのは、もともと高校や大学、社会人チームでは名をはせるなど下地があり、自信があるからだ。東大や早稲田といった名のある大学の新入生、あるいはそうした学校の出身者も、きっと地力がそれなりに高いと「思って」いる。しかし、それは「罠」だ。普通に会社員として社会人生活をスタートする大半の凡才は、まず「身の丈」から見つめ直した上で生き方を考えないと、息苦しく、働くのが辛い人生を送ってしまいかねない。東大在学中に会社を作って起業家として大儲けできる人なんて、まさに西岡選手のような一握りの才能の持ち主でしかない。常見のアニキ風に言えば「ガンダムのジム」であるところから、私なりに言えば「アホ」だと自覚するところが出発点だ。そういえばソクラテスも「無知の知」を説いていた。

僕たちはガンダムのジムである
常見陽平
ヴィレッジブックス
2012-09-28


◆既存の価値観の中で成功することは悪か?
ここで思い出すのが、先日現代ビジネスでよく読まれていた「『東大までの人』と『東大からの人』」という週刊現代の記事だ。地方の進学校出身者が都会の名門校出身者との違いを思い知らされて憂鬱な気持ちになるという。記事の最後には、官僚や医師、大手企業に就職したりなど「既存の価値観のなかで成功すること」(記事より)をよしとする従来の東大生の志向を批判的に取り上げ、東大OBの起業家の「将来性や世間の評価が不確実なものを作り出すイノベーションの能力のほうが重要視されるべき」というコメントで締めている。冒頭で紹介した東洋経済本誌の特集は、まさにそうした考えの延長上に具体的に東大生のベンチャー志向を取り上げている。刺激を与えるのは大いに結構。新しい時代を切り開く人材も必要だ。しかし、世の中イノベーティブやクリエイティブな「攻め」の人間ばかりではない。与えられた仕組みを「守る」「育てる」、ベンチャーよりも既存の価値観のなかでの成功を目指した方がいいタイプの人間だっている。野球だって攻守両方必要だ。

マーケティングの世界では、消費者の新製品や新サービスの購入態度について「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」に5分類するイノベーター理論がある。学生起業家のような超絶「できる人」の指標として参考にすると、トップのイノベーター層は2.5%というから、大体そんなものかな。プロ野球選手のなかでも1億円プレイヤーの割合よりは少々多いくらいで、やはり一握りでしかない。

◆アホなりに生きる「あほロワー」戦略
ただし、だ。漫然と過ごして「アホ」のまま、つまり「レイトマジョリティ」や「ラガード」で居続けるにはリスクがある。日本が拡大局面にあった時代なら食わせてもらえたが、千変万化の激しい今後の社会で割を食いかねない。最近は「マイルドヤンキー」として楽しく人生を送る選択肢も示されているが、移民受け入れも取り沙汰されている時代なので、無思考のままでは置き換えられてしまうのは怖い。


ならば「アホ」なりに戦略的に割り切った生き方もあっていい。マーケティング理論には、企業戦略を「リーダー」「チャレンジャー」「フォロワー」「ニッチャー」を4つに分類するが、「フォロワー」として「リーダー」を模倣・追随し、生き残りを目指すところから始める。そこから「ニッチャー」として独自路線を追求するなり、あるいは自信をもって「チャレンジャー」になってもいい。凡才は「アホ」としてのフォロワー戦略、「あほロワー」な生き方をするところから始めるべきなのだ。自分が「リーダー」だという幻想は捨てる。ドラマの「LEADERS」には感動してもいいが、豊田喜一郎気取りになるのはただの「中2病」だ。喜一郎は稀代のイノベーター経営者だが、父親の遺産というずば抜けた下地があったことも忘れてはならない。

※写真は豊田喜一郎像(wikipediaより)
140403豊田喜一郎像

字数も増えすぎたので、この辺で閉めますが、私自身も新年度は身の丈に合わないことは辞めて足元を見つめ直す。アゴラのレギュラー陣で唯一、商業出版をできてないので焦って常見のアニキに相談もしたが、書籍の編集者たちに「ネットや政治の本は売れない」「新田さんはゴーストライターどまり」と酷評されて現実を思い知った。反面、ネットの広告系の会社からは「まともな記事を書ける人が少ないので仕事をお願いしたい」と言われる。ぶっちゃけギャラは悲しいほど安いが、自分の市場価値を考え直す機会になった。残念ながら紙媒体の編集者とはスポットの記事やPR関連以外での仕事をする機会は無いだろう。今年度もアゴラ、東洋経済オンライン、現代ビジネス、BLOGOSなどで色々書いていきます。いや、気が付いたらサラリーマンに戻ってるかもしれないけど。では、そんなところで。ちゃおー(^-^ゞ

追伸・偶然ながらアニキが近々出す新著は「『できる人』という幻想」。出版と無縁な「あほロワー」な私はこれを読んで参考にします。いや、ステマじゃないよ(笑)
新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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