大きいノバルティスファーマ不正問題の影響

アゴラ編集部

スイス製薬大手ノバルティス社の日本法人子会社、ノバルティスファーマは、本社のノバルティス社が日本へ進出した1952(昭和27)年に設立された外資系医薬品メーカーでは古参の企業です。国際的に医薬品メーカーの合従連衡が進み、本社がノバルティスという名前になったのはごく最近のこと。それとともに日本法人も社名を変えました。本社はファイザーやロシェとともに世界三大医薬品メーカーに一角を築き、日本法人も売上高では国内で10位前後に位置しています。


ノバルティスファーマの特徴は、規模のわりに社員数が多いことで、MR(medical representative、医薬情報担当者)も外資系では1、2を争う数だそうです。もともと本社のR&D能力が高く、さらにその自社開発製品を積極的な営業接待と人海戦術で、病院や研究機関、薬局などへ売り込んでいく、という戦略が見えてくる。日本の医薬行政や医薬業界に長く精通していることで、行政の指導に柔軟に対応し、かゆいところに手が届くような営業攻勢を病院管理者や薬剤部などへかけていたんでしょう。

こうしたノバルティスファーマは、過去に何度か問題を起こしています。高血圧症治療薬の臨床データを同社の元社員が関与して操作し、不正なデータをもとにした誇大広告をしたことが明らかになり、厚生労働省は2014年1月に薬事法第66条第1項(虚偽・誇大広告の禁止)違反の疑いで東京地検に告発しました。東京地検特捜部は、同年2月19日、同社を家宅捜索し、関係資料などを押収しています。薬事法の場合、不当表示や誇大広告などに厳しい。とはいえ、最高刑は2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金、又はその両方となっている。同法違反の場合、法人も対象になります。

また、2014年1月にはノバルティスファーマは東京大病院などが行っていた白血病治療薬の医師主導の臨床研究に、同社営業社員を関与させていた、という問題も発覚しています。この問題では、臨床研究の患者アンケートなどを回収。個人情報保護の観点からも同社のやり方が強く問題視されました。

こうした不祥事を受け、同社は2月に弁護士3人で構成する社外調査委員会を設置。その調査委員会の報告書が4月2日にまとめられ、同委員会は同社の医師主導臨床研究が「ノバルティスファーマ丸抱え」と指摘。さらに、患者に重い副作用の症状が出ていたのにもかかわらず、国にそれを報告していなかったことなども明らかになり、同調査委員会は同社の倫理観の低さを厳しく批判しました。

ノバルティス社は、4月3日、デビッド・エプスタイン社長らが東京に駆けつけて会見し、日本法人であるノバルティスファーマの社長らを更迭し、情報の隠蔽に関わった幹部級社員数名を解雇、トップをドイツ人社長に交代させることを明らかにしています。また、2011(平成23)年以降の臨床研究についても第三者調査委員会を設置し、再検証を進め、その結果がまとまるまで医師主導の臨床研究へ寄付金などの提供を止める、とも発表。エプスタイン社長らは、日本の患者や医療関係者らへ深く陳謝しました。

日本の厚労省による医薬行政は、国際競争力を高めるために審査期間が短縮されるなどしていても、まだ新薬承認に時間がかかることで有名です。日本の医薬品メーカーは総じて開発力が弱く、ファイザーやグラクソ・スミスクライン、そしてノバルティスなど海外の有力メーカーの新薬の後塵を拝している。しかし、今年3月には、武田薬品工業が高血圧症治療薬でノバルティスファーマと同様の不正が発覚。こうしたデータを操作するのは、外資系かどうかにかかわらず医薬業界で半ば常態化しているのでは、という指摘もあります。

折しも「STAP細胞」事件では、日本の中核をなす研究者らのずさんなデータ管理や不正、理化学研究所の対応などが批判されています。臨床研究データの不正では、病院や医師らの関与がなければ成立しないでしょう。「科学技術立国」と言われる日本では今、研究者や技術者のモラルが崩壊しているんでしょうか。これまで「性善説」に頼ってきたシステムを、大きく見直さざるを得ない事態になりつつある。これまで支払われることはなかったそのコストが、日本の持つ強い競争力の理由の一つだったとすれば、単なるモラルだけの問題では収まらないような気がします。

千日ブログ ~雑学とニュース~
白血病薬SIGN研究、社外調査委がノバルティスを「ゲーム感覚」と断罪


Beyond proficiency: How early English exposure influences non-native speakers
PHYS.ORG
英語圏で英語を話す非ネイティブスピーカーについて書いている記事です。米国へ来る前までになるべく英語に触れていたほうがいい、ということなんだが、これは当然と言えば当然でしょう。ただ、世界には英語に触れることなく大人になり、米国へやってきて移民申請しようとするケースが多い。米国で英語を習熟しても、それが社会的にも経済的にも文化的にも移民が同化することにはつながらない、と書いています。米国にはマイノリティの集団が形成され、その中では非英語の母国語を使い続ける。その場合、英語の習熟度はそうでない場合に比べて1/3も低くなるらしい。ただ、インターネットも含めたグローバル化は、英語圏以外でも日常生活で英語に触れる機会を増やしています。

「進撃の巨人展」が上野の森美術館で開催決定!
シネマトゥデイ
アゴラも神田から上野へ引っ越したんだが、近くにたくさん美術館や博物館があって楽しい街です。安くてうまい飲み屋も充実している。これはヤバい。アニメが一休みしているマンガ『進撃の巨人』が、上野でイベントをやるらしい。2015年公開の実写映画化も決まり、なにやら何度目からの盛り上がりが期待できそう。ファンは楽しみです。しかし、アニメ版のほう。第25話の「壁」で終わったまま。続編はまだなのか。こっちのほうも待ち遠しいです。

The real cost of socialism: Venezuela suffers under severe shortages of flour, butter, milk and diapers
NATURAL NEWS
いわゆる「計画経済」という壮大な実験は、旧ソ連圏の崩壊で実質的に失敗に終わったんだが、いまだに社会主義を標榜する国家があちこちにあります。ベネズエラもその一つ。石油産出国であることを背景に「マルクスの亡霊が復活する」というスローガンで社会主義路線を突き進んでいます。労働や商品の需給は国家が統制している。スーパーマーケットに行っても目的の商品を探し出すのが一苦労らしい。貧者から支持を集め、生産手段や農地を国家へ「接収」し、国有化を推し進める。しかし、それで貧困が解決したのか、といえば、どうもうまくいっていないようです。ベネズエラ型「21世紀の社会主義」もチャベス大統領の死去で頓挫しつつあるらしい。この記事では、小麦粉や食用油、バター、ミルク、おむつなどが極度に不足している、と書いています。そもそもマルクスは、一国社会主義は破たんする、と江戸時代に予言していた。無理やり社会主義国家を作り、約70年後に失敗したのはレーニン主義です。

「本屋さんが一番売りたい本」と、それ以外の本
いつか電池がきれるまで
出版社主催や文壇ご用達の文学賞とは別に、本屋が選ぶ本、というのが出てきたのはいつごろからだったでしょうか。ワインにはソムリエ、というのがいたり、各業種業態にはコンサルタントがいて、あらゆるオススメが氾濫しています。今ではネット上での「口コミ」の効果が大きい。書店員だから、いい本を選ぶことができる、とも限らない。むしろ「売りたい本」のほうが強いんじゃないか、という話もある。「売りたい」といっても不動産やクルマほど高額じゃないんで、どうしても書店員の個人的な好みが前面に出てきます。小説ばかり、というのもうなずける。書店員は小説しか読まないんでしょうか。


アゴラ編集部:石田 雅彦