あなたにも無関係ではない遺言 --- 岡本 裕明

アゴラ

日経新聞の一面トップの記事は「遺言 プロ代筆で安心」。相続税引き上げが2015年に迫る中、残された家族が相続問題で困らないよう事前にしっかりした遺言をプロの公証人が手引きをしたうえで原本を公証役場に保管するというものであります。確かにこの仕組みであれば、遺言そのものに疑義が少なくなるうえに法律で定められた内容を網羅し、その上、公証役場での保管という紛失のリスクが少ない点に意味があるかと思います。山崎豊子の「女系家族」のような問題は少なくなるということです。


さて、私は年齢的には遺言を書くにはまだちょっと早いのですが、遺言らしき準備はしてあります。それは私が事故や病気でいつ何時何が起きるか分からないという前提に立っています。リタイアしている高齢者より社長業をしていくつもの事業が動き、従業員も多数いる中で突然何が何だか分からない状態になったらそれこそ、多くの人や事業が路頭に迷うことになるのです。

私が何かあった時のメモを残そうと思った理由は父親が亡くなった際でした。金額は微々たるものだったのですが、あっちこっちからいろいろな預金や有価証券、生命保険など出てきて母親と解明するのに非常に苦労した経緯があるからです。残された者には本当に分からないというのはこのことだと思ったのです。

会社の仕事については小企業なりにバックアップパーソン方式を取っていますのですべての事業内容についてリーダーとバックアップする人がいる仕組みを長年作り上げています。これは北米である日突然二週間ノーティスで辞職する人が多かった時代に「二週間でその人がやっていた仕事を全部書き出し、引き継ぎするのは無理」と感じたからです。勿論、仕事の引継ぎが雑であればそんなこと気にすることはないでしょう。ですが、日本企業としてシームレスな引継ぎというのは非常に重要なことなのです。

一例をあげればこちらの取引先の銀行から突然電話がかかってきて「実は担当者が半年前に辞めて私が担当になっている」という連絡が悪びれもなく来たのです。銀行も借り入れがなければこちらからそうそう連絡するものではないので半年後にようやくその事実を知ったという次第ですが、この手の話はこちらでは全く珍しくないのです。

では個人のことはどうでしょう?最近は一人っ子も多くネットでいろいろな取引をされている方も多いでしょう。結果としてある日突然亡くなったら残された家族にとんでもない額の請求書が送られてくることもあるでしょう。あるいはこちらではネットバンキングで預金通帳も何もないわけですから残された者は銀行口座がどこにあるのか、いくらあるのかすら分からない状態なのです。

遺言を完璧にするという今日の新聞記事は切実な課題でありそれを公正証書にして残すというのは非常に賢いやり方だと思います。私も日本の事象(内々の契約など)については書面を公証役場で確定日付をもらうようにしています。そうしないと第三者への対抗要件が満たされないことが往々にして起きるのです。公証役場というのは使い方では実に便利なところなのです。

今日のポイントは遺言とはそれなりの高齢者のみの問題ではないということ、特に現役バリバリの人だからこそ、自分の事実をどこかにきちんと残しておくという仕組み作りをすべきだろうと思います。勿論、その残し方をコンピューター上に残せばのぞき見されたり消去してしまったりするリスクが残ります。その辺りの工夫は皆さんが各々しなくてはいけないと思います。ですが、残される者がそこに行けば情報があるということは知っておかないと意味がありません。

案外自分しか知らない口座、株式、投資、生命保険、債権債務、ローン、保証などはあるものです。保証や連帯保証人などは家族が絶対に反対だからこっそりやっていたというケースもあるでしょう。これなど本当に残された家族は不幸のどん底に落とされるかもしれないということを考えてみるべきではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年4月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。