イエレンFRB議長の言葉、マーケットには甘やかな調べ --- 安田 佐和子

アゴラ

イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、米上下院経済合同委員会で「労働市場の大きなたるみとインフレ目標値(2%)以下の状況では、高水準の緩和継続を保証する」と証言しました。ただし、利上げのタイミングについては明言を回避。量的緩和終了後も「しばらくの間」低金利を維持すると述べ、3月18~19日FOMC後の記者会見で「量的緩和終了後から約6ヵ月」、つまり早くて2015年4月の利上げを示唆した内容を繰り返していません。

同議長は「地政学的なリスクと芳しくない住宅市場」を経済のリスクと指摘。労働市場に対しても「満足できる水準から程遠い」と述べ、緩和的な政策の必要性を説明した。住宅市場は、減速が「予想以上」とした上で、FOMCメンバーが深刻に向き合うなら金利をより長きにわたって低水準に抑える手段を決定しうるとも述べた。

労働市場については、あらためて「たるみ」として不完全失業者と長期失業者を挙げました。同議長は「パートタイムを余儀なくされている人々は労働力全体の5%と、異例に高い水準にある」と指摘。また「全失業者に占める長期失業者の割合が約35%という水準は、尋常ではない」と警戒を示しています。そのほか労働参加率も「弱い雇用市場の一因」と引き続き注意を払っていました。もっとも、ベビーブーマーの引退もあって「人口動態が一因」と言及するのを忘れていません。なお3月31日の講演で労働市場のたるみとして挙げられていた項目は1)風完全失業率、2)賃金、3)長期失業者、4)労働参加率──の4点。

経済活動には、楽観的な見方を寄せました。1~3月期の景気鈍化は、「一時的」と明言。また「多くの経済指標が示すように支出と生産の回復を確認しており、経済全般にわたって安定的な成長をたどっている」と述べています。景気回復が続く限り「慎重なペースで資産買入の縮小を継続する」とも語り、現行の政策を粛々と実行していく構えを打ち出しました。その上で、「労働市場が改善すれば量的緩和は今秋に終了する」との見方を繰り返しています。

今回、珍しく株式相場についても言及。「バリュエーションは過去のレンジ内」、「株価に目標値はない」と発言しました。とはいえ、2013年12月FOMC議事録で明記されたように「小型株の一部は過大評価されている」との認識を明らかにしたため、小型株指数のラッセル2000は一時1093.28pと2月5日の安値をつけましたね。大型優良株で占めるダウ平均の100ドル高とは、対照的な動きをみせました。そのほか、2013年12月FOMC議事録と同じくレバレッジド・ローンの増加、ジャンク債の発行にも注意信号を点灯。その上で「長期の低金利を背景とした投資家の投資追求欲が高まり、レバレッジ、デュレーション、クレジットへのリスクを強める」と指摘し、仮に過剰なリスク選好を確認すれば利上げあるいは規制強化で対応する可能性をちらつかせています。

ラッセル2000、大型優良株が持ち直すなか調整過程をたどります。

russel

エコノミストのレビューをみてみましょう。

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミスト

「第1弾利上げへの言質をとらせない模範的な回答を示し、上々の出来だったといえよう。現行のフォワード・ガイダンスにある『雇用がFedの目標(最大限の雇用)に達した場合でも低金利を続ける』という文言も、あくまで見通しで確約ではないと述べ柔軟性を保った。ベビーブーマーの引退によって労働参加率が低下する傾向がある一方で、4月を除き労働参加率は底打ちの兆しをみせるなか、労働市場を見極める上で『3~6ヵ月平均』に注目するよう示唆していた点は注目。出口政策の一環としては、バランスシートについては売却だけでなく償還分の再投資も合わせ今後検討していくと説明するにとどめた。超過準備金の付利は利上げ後という発言したが、予想通りといえる。」

BNPパリバのローラ・ロスナー米エコノミスト

「イエレンFRB議長の発言は、ハト派寄りに傾いていた。地政学的リスクと住宅市場を新たな下方リスクに加えており、景気見通しに楽観的だった割に景気の上振れリスクに言及していない。さらに『足元の失業率でも』労働市場にたるみがあると発言しており、出口政策に忍耐強いスタンスを示したといえる。インフレが2%割れを続ける場合には、『経済動向に影響を与える』とさえ、警戒を示していた。インフレ目標値2%へ向かって徐々に上向くとの見通しに自信がないようにも読み取れる。」

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙でFed番を務めるジョン・ヒルゼンラス記者は、議会証言後に「イエレン、経済指標から生産と支出の回復を見出す(Yellen Sees Indicators Pointing to Rebound in Spending, Production)」との記事を配信。明るい景気見通しを示した一方で、当分の間は低金利政策を続けるとまとめていました。WSJ紙のように受け止めたのかフタを開けてみると米株高(ナスダックのみ下落)、米債小幅高、ドル小幅高とトリプル高でしたね!イエレンFRB議長が口を開けばマーケットが反応するなんて、セイレーン化してきた感が。イエレンさんには、市場参加者をマーケットという荒波に飲み込まないようお願いしたい限りです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年5月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。