「東洋的専制」に未来はあるのか - 『中国の愚民主義』

池田 信夫



中国の経済状態が悪化しているという報道が多い。金融機関のほとんどが国有なので、よく悪くもバブル崩壊という形はとらないで、ゆるやかに減速していくだろう。しかし共産党政権を支えてきた唯一の取り柄である成長が止まると、中国指導部の恐れる「動乱」が起こる可能性がある。

辛亥革命の指導者としては孫文しか知られていないが、彼は議会主義に反対していた。国民党を創立し、実質的な党首として指導したのは宋教仁だった。孫文は選挙にも反対し、まず軍政で国内を安定させてから憲政を行なうべきだと主張したが、宋は議会主義を主張し、1912年の議会選挙では国民党が圧勝した。このとき宋が首相になる予定だったが、大総統だった袁世凱に暗殺された。

これに対して孫文は武装蜂起したが、袁に敗れて日本に亡命した。そのあとは軍閥が各地方で割拠する内戦状態になり、今に至るまで中国には(本来の意味での)議会は存在しない。孫文は「三民主義」で知られるが、その「民権」は軍政と独裁ののちに遠い将来に実現する目標にすぎない。彼は「中国の民衆はまだ主権者になれるほど成熟していない」という愚民主義を公言していた。

その思想は、鄧小平の改革・開放にも受け継がれている。それは中国の伝統を踏まえたリアリズムといえるのかもしれないが、辛亥革命から100年たっても中国の民衆が民主主義になじまないとすれば、いつなじむのだろうか。こういう「東洋的専制」の政治的な袋小路をみると、彼らのモデルとした明治維新は奇蹟というしかない。

本書によれば、この袋小路が打開される可能性はない。共産党独裁はいずれ崩壊するだろうが、政権が代わるときは膨大な犠牲が出るのが中国の歴史の通例だ。せめてソ連や東欧のような形で、平和的に崩壊することを願うしかない。