「のりしろ」を増やす経営が難しい時代 --- 岡本 裕明

アゴラ

日本は世界でも最もニッチマーケットが少ない国と聞いたことがあります。これはとりもなおさず、なんでも手に入る国という意味で消費者にとってはこれほど嬉しい国はありません。日本のように一定水準の人口数と所得水準は仮に0.1%の人の為のマーケットであっても商売になるということであります。

ニッチ、つまり隙間がない市場では企業にとっては「次の戦略」を立てるのが実に難しいことになるようです。


ソニーが不動産事業を立ち上げ、3年後に上場を目指すいう記事はかなり違和感をもって受け入れられたと思います。そのニュースを受けた株式市場では始めこそ前向きに理解され買われたものの、その後、本業では無理なのか、というネガティブな捉え方をされてしまいました。

パナソニックが1000億円もって自動車関連企業の「買い付け」(=買収)に出掛けても「そんな金額では無理」とされた記事もインパクトがありました。めぼしい会社は次々とM&Aされていき、その価値もどんどん上がっていきます。結果としてたかが1000億円ぐらいでは……ということになるのでしょうか?

パナソニックの記事にはもう一つ気になるものがありました。「この会社には未来がない。だから僕はサムスンに行く」というエース級社員の辞意はどういうことなのか、紙面を読み返しながらその奥底を考えてしまいました。多分、サムスンなら三顧の礼で受け入れられ、一定の権限と責任を持たせてくれるということではないかと思います。また、サムスンなら向かう市場は当然ながら世界。ならばやる気も起きるという想像が正しいならこれは困ったことです。

経営企画部とは会社の成長路線を考え、5年後、10年後に会社が進むべき方向性をつける部門です。大手企業ならばこのような部署がありますが、私のように小規模事業主ですと経営企画担当者は私の任務となります。先日、私は会社でこんなことを述べました。「君たちの給与を毎年引き上げるためには今の業績が上がらない限りそののりしろはない」と。つまり、売上なり営業利益が毎年一定であれば給与を引き上げる原資は生まれないということです。よって、新たなる事業を探し、既存事業の売り上げ、利益率を改善し、無駄なコストを削減し続けなければ従業員に報いてあげる方法がないし、新たなる採用も生まれないのであります。

ところが新規事業を立ち上げるのが結構難しいのは5つも6つも事業を抱えている私が一番よく分かっています。少なくともカナダではまず、初めの3年は利益が出ない前提でプランしなくてはいけません。事業を計画、立ち上げ、軌道に乗せ、利益が出るほど売り上げを伸ばすのにそれぐらいはかかるという意味です。3年たって計画通りに進捗していない場合の対処が問題です。当初の見通しを誤ったのか、マーケティングがまずかったのか、花はこれから咲くのか、その見定めが難しいのです。

多分、多くの経営企画担当者、そして中小企業のオーナーは同じことを考えています。「何か新しいこと」を。

新しいビジネスはビジネス革命が生じた際にビックバンのように生まれます。IT革命、はたまたスマホ時代になっただけでどれだけの新たなる価値を生み出したでしょうか? そこには無数の起業家が群がり、ごく一部の人が勝ち上がりました。が、チャンスがあったことは事実です。

海外に行ってもチャンスは多いでしょう。ニッチだらけです。ここカナダのように先進国であっても未開発市場はいくらでもあります。東南アジアのように発展途上にある国々も富やインフラの成熟化と共にどんどんビジネスチャンスは生まれていきます。ですが、日本国内を見ていると確かに新規事業は徐々に難しく、そして、よりコストがかかるように見受けられます。

ソニーが金融や生命保険を収益の柱としている中で次は不動産かと考えると企業は稼げれば何でもよいのか、という疑問を呈してしまいます。日本電産の永守重信社長が最近改めて注目されているのはモーターという世界とそこから派生したビジネスに特化して強みを世界の中に張り巡らせたということでしょう。パナソニックにしてもAVCネットワークス出身の津賀社長が作り出そうとしている新生パナソニックには強みと弱みが表裏一体にあります。

経営企画者の悩みを解決するのに私なら本業の強みを生かせる派生事業や10年後の世の中の変化に対応できる本業対策にとどめ、本業の深堀との両立でウィンウィンの状態を作ることを前提にすべきではないかと思います。経営者が変わるたびに舵を急に切れば振り落とされるとはこのことではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。