書評:『グーグル、アップルに負けない著作権法』? --- 中村 伊知哉

2014年05月19日 07:59


グーグル、アップルに負けない著作権法 (角川EPUB選書)

角川歴彦さん「グーグル、アップルに負けない著作権法」。

いや会長、コレそんな本じゃないでしょ。がっぷり四つのメディア論ですよ。


2009年・2012年の著作権法改正を周回遅れと斬り、過度なまでにコンプライアンスが重視される日本企業はグローバル市場でアメリカ勢とどう戦えばよいのかと提起します。デジタル時代の法整備を政府に求め続けて来られた、その思いがストレートに伝わります。

それにしても、本論3章のうち1章をスマートテレビに割かれたのが驚きでした。スマホ、クラウド、ソーシャルは決着し、次の主戦場はテレビだということ。それはGoogle、Apple、Amazon、Facebookの「ギャング4」もそう見てるんでしょうかね。

そこでは通信・放送の区別にこだわる異質な法制度への批判も加えられます。ただ日本は、角川さんも参加する知財本部も後押しし、他国に比べ先駆的な「融合法制度」を2010年に導入しました。制度論は段落し、どちらかというと企業側のやる気の問題に移っているとぼくは思います。

一方、通信・放送融合がクローズアップしたのは「政府の力技」で地デジを完全実施したからで、日本はイノベーションに政府の力が必要だったと指摘されます。同時にそれが限界であり、21世紀の行政を変革することが不可欠と説きます。この点、同意。

そして、総務省は放送のネット化にとどまらない次のステージとして放送のオンデマンド化を検討せよと説きます。言い換えれば、番組配信からマルチスクリーン・クラウド化ですね。必然だと思います。

20年前ぼくは政府初の通信放送融合の担当になりました。というか担当がいなかったから勝手に名刺に刷ったんです。以後、長い間テレビ局からにらまれてました。この数年で業界の対応はすっかり変わりましたが、既に世界の場面は転換しています。先を急ぎましょう。

角川さんは、「テレビがなくなる日」のシナリオとして、ハードとしてのテレビは残るが日本市場を外国勢が独占するか、本当にハードとしてのテレビがなくなるか、その両方を提示します。案外、後者の可能性があるのではないでしょうか?

テレビ局の制作力は強く、簡単には崩れなません。だけどテレビ端末がファーストスクリーンであり続けるという消費者行動は確かなものではありません。ユーザ行動のほうが先に変わっていく可能性がもう見えているのではないでしょうか。

そう、ユーザから変わる。著作権法の対象がプロの制作者から一般の人に広がることに関し、ぼくらの「デジタルえほんアワード」の審査員を角川さんに務めていただいたときの模様を記していただいています。今後ともよろしくお願いします。

著作権とテレビに関していえば、まねきTVとロクラクⅡの最高裁判決でテレビ局は二次流通の資格を勝ち取りました。でも、それを利活用できないジレンマがあると指摘します。そのとおりです。”放送事業者は何を守りたかったのだろうか”との指摘に放送側は答える必要があると思います。

厳格な著作権法の適用により、テレビ局の権利を守った。ように見えて実は、国内はクラウド事業が萎縮し、結局プラットフォームを米IT企業に取られ、根こそぎやられている。局地戦で勝って戦争に負ける。その事態を認識しないと、戦略が描けないとぼくも思うんです。
 アップルiTunes Storeの審査を “一個人の判断で一冊一冊の取り扱いが決まる。モノポリー者の行動原理の極致、これこそ漫画” とぶった切ります。ジョブスへの敬意が深いからこそ、その過ちへの反発も強いですね。

後段の対談もスリリングです。

中山信弘先生との対談。まねきTV判決も、骨抜きフェアユース規定も強烈に批判し、ニコ動とコミケを評価する中山先生。著作権法の権威がパンクなのが希望を抱かせます。

MITメディアラボ伊藤穣一さんとの対談も。著作権保護を強くするんじゃなくて、プラットフォーマーを独禁法的にコントロールすべきと説きます。踏み込みますね。同意します。逆に向かうことによって、権利者は首を絞められています。

さらに伊藤穣一さんは、土管屋と著作権分配屋の差配を国単位でやるべきか、グローバルでやるべきか、と問います。そこです、問題は。国とグローバル企業の関係が今後の最大課題。

角川さんがMITメディアラボの入口に「CSK創業者大川功氏の大きな寄付で始まったことを感謝する」とのボードがあると記しています。それを書かせる契約を結ぶのに15年前ぼくは奔走しました。手強かった~、MIT。

そして、ドワンゴ川上量生会長との対談。ネット時代はコンテンツの寿命が短くなるが、コンテンツの消費を是認しソーシャル性をもつことでコンテンツは生き返るとのやりとり。本質的だと思います。

川上会長”ソーシャル化された社会での権力というのは、著作権という法律じゃなくて、ユーザの声”。そう思います。法律や制度より、みんなの力を活かすほうが戦略的。

”日本は組織化されたコンテンツが弱い”、”ソーシャルの力でコンテンツを作る方が、日本には向いている”。同意。ぼくが12年、子供の創作活動をやっているのも、その考えからです。

にしても、対談を読むに至り、この本はKADOKAWA・DOWANGO統合の布石だったのかな、という気がしました。この対談の続きを期待します。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年5月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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