三陽商会が「バーバリー」のブランドを失った理由

大西 宏

三陽商会が、英バーバリー社と結んでいたライセンス契約を来年6月末で終えると発表し、それがニュースに流れています。バーバリーがいよいよ日本でも本格的に直営店展開をはじめることになります。もともと2009年に、当初は2020年までだった契約期間を5年短縮し、2015年6月末までとすることで合意されていたので、サプライズはなく、そのとおりになったということでしょう。


三陽商会にとっては売上の2割強を占めるバーバリーを失うことになります。派生ブランドの紳士服「バーバリー・ブラックレーベル」、婦人服「バーバリー・ブルーレーベル」は、改めてライセンス契約を交わして継続するということですが、バーバリーの名前はなくなります。株式市場もこのニュースに強く反応したようです。
三陽商会、「バーバリー」失う 売上高2割減へ  :日本経済新聞
東京株反発、午前終値は119円高 三陽商会が急落、ジャスト一時ストップ高 – SankeiBiz(サンケイビズ)

三陽商会にとっては、派生ブランドを含めるバーバリー関連で売上の5割を占めているので、「脱バーバリー」は社運をかけた展開になってくるでしょう。

この件については大前研一さんがスカパーの番組で、「私はこのバーバリー社の戦略は、失敗に終わると思う」と断言されてしまっているようですが、どうなんでしょう。

私はこのバーバリー社の戦略は、失敗に終わると思う。日本の事情をまったく知らない英国から指示を出して、うまくいくはずがない。現場を知らないというのは、恐ろしいことだ。こういったことは、日本の企業の海外事業戦略でもよく行われていることなので他山の石としたい。

 こうなったら、三陽商会は中国でも名前が通っている「ブルーレーベル」から「バーバリー」の名を外して売ればいいんじゃないかと思う。

【大前研一のニュース時評】バーバリー、ZARA…海外アパレル日本出店の成否 – 経済・マネー – ZAKZAK

そうでしょうか。バーバリーの立場からすれば、三陽商会からのライセンス収入は、バーバリーの全売上の3%に過ぎないのです。ちなみに、バーバリー本社の売上は、直営店が67%、卸経由が29%です。

しかも二桁成長している元気印のバーバリーからすれば、三陽商会からのライセンス収入を失ってもいくらでも吸収できる範囲でしょうし、日本でのビジネスチャンスを拡大することができることとの天秤にかければ、当然日本の市場でも、直営店の展開にチャレンジしようということになるのではないかとも思えます。ちなみにアニュアルレポートで直営店の売上高の推移が載っていたので画像を添付しておきます。直営店の展開の順調さが伺えます。

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また、中国人観光客がバスで乗りつけ、「ブルーレーベル」を1人で問屋さんぐらいの量まで買っていくシーンを目撃しているともおっしゃっていますが、抱えるほど買い込むのも、「バーバリー」の冠がついているからじゃないでしょうか。

いずれにしても、バーバリーは、今はアップルにスカウトされ移籍したア-レンツ女史がCEOの時に、ラグジュアリーブランドの再定義を行い、またターゲットも変え、さらにショ-もネットでライブ中継してSNSで評価してもらうという思い切ったデジタル戦略をとって立てなおしてからは、バーバリーは、古いくすぶった老舗ブランドではなく、健全に成長するブランドとして蘇っています。

市場のせいなのか、経営力の違いなのかは別として、それと比べれば、日本でのバーバリー・ブランドの売上高の推移は不明ですが、残念ながら、三陽商会はこの数年1000億円をすこし超えるところで売上が横ばい状態となっています。営業利益は好転していますが。

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実は、昨日にバーバリーのデジタル革命について書いたメルマガを発行したばかりでした。
バーバリーと小米(シャオミ)のデジタル・マーケティング革命 :: 有料メルマガ

バーバリーのデジタル戦略といっても、日本ではピンとこないですね。それだけ三陽商会としてはデジタル戦略で目に見える成果をだしていないということでしょうか。

以前にバーバリーのデジタル戦略についてはブログでも書いたことがありますのでご参照ください。
バーバリーから移籍したアーレンツ女史は、アップルを変えるか(大西 宏のマーケティング・エッセンス )

もうひとつ考えられるのは、あくまで想像ですが、バーバリーの改革というか、進化、あるいは成長パワーに三陽商会がついていけなかったことが、バーバリーと三陽商会の間の溝を広げたのではないかということです。紳士服「バーバリー・ブラックレーベル」や、婦人服「バーバリー・ブルーレーベル」の展開が日本市場に適合したものだったとしても、派生ブランドではバーバリーのブランド価値向上には直結しません。

三陽商会も大変でしょうが、バーバリーを失うことは、思い切った戦略転換のチャンスなのかもしれません。危機を転じて好機とされるよう、お祈り申し上げます。