福島第一原発のガダルカナル状態

池田 信夫

きのうは福島第一原発を見学させてもらった。くわしいことは来週のGEPRで報告するが、私はちょっと印象に残ったことをメモしておく。


とにかく膨大な作業である。われわれ12人が見学するだけでも何重にも防護服を着て防護マスクをつけ、ボディチェックを何回も受けなければならない。これを毎日、下請けを含めると3000人以上の作業員がやり、線量が多くなると交替する。

本質的な問題は、何を目的にしているのか、はっきりしないことだ。廃炉推進カンパニーの増田CDO(廃炉最高責任者)に「作業はいつ終わるのか?」ときくと「30~40年が目途だが、廃炉の定義が決まっていないので正確にはわからない」。コストは1兆円以上かかるが、その作業の大部分は汚染水対策だ。といっても湾内のセシウム濃度は10Bq/kg以下なので、「飲んでも大丈夫」。汚染水を全部タンクに貯めるので、貯水タンクの水の量は今年中に80万トンになる。「薄めて流すことはできないのか」と質問すると「それは当社が決めるわけにはいかない」。

たしかに事故の責任は東電にあるが、今そんなことを言ってもしょうがない。起こった事故はサンクコストなので、必要なのは責任追及ではなく、処理コストの最小化だ。ところが国は「支援する」という建て前で逃げている。安倍首相は「国が前面に出る」と言ったきり、470億円の「予備費」以外は何も決めない。

廃炉は東電の電力事業の一環として行なわれているが、中身は災害復旧だ。それを経営の破綻した東電がやるから、戦力の逐次投入になって処理が進まず、目標設定さえ自分でできない。ALPSはようやく動き始め、凍土壁の工事も始まるが、専門家によれば「最大の水源は雨なので意味がない。そんな高度な技術よりフタをするほうが早い」。しかし国費を出せるのは「研究開発」だけだから、土木工事には国費がつかない。

「BAD東電を切り離して国有化し、国の責任で進めたほうがいいのではないか」と質問したら、増田氏は「本社との人事ローテーションがなくなると、作業員の士気がもたない」。自分たちの責任だという使命感が、辛うじて現場を支えているのだろう。しかし災害復旧を電力会社がやることが本当に効率的なのか。国がゼネコンに発注したほうがいいのではないか。

膨大なコストは、最終的には電力利用者と納税者に回ってくる。東電は実質的には国営企業だが、よそのエリアの小売りに参入したりしている。こんな変則的な競争をあと30年以上やったら、日本の電力産業はめちゃくちゃになるおそれがある。

いつ終わるともしれない危険な作業を黙々と続ける東電と下請けの作業員には頭が下がるが、安倍首相は逃げたままだ。国が何も決めないから、無意味な汚染水処理にマンパワーが取られ、無駄なハイテク装備に国費が浪費される。一緒に行った石井孝明さんが「ガダルカナル状態だ」と言っていたが、まさに指揮官なき消耗戦だ。安倍氏が集団的自衛権にかける熱意の1/100でもエネルギー政策にかければ、事態は大きく前進するだろう。