【年金の財政検証の検証1】年金は「100年安心」と胸を張れるか

2014年06月03日 20:42

本日6月3日に、「年金の財政検証」の結果が公表された。ここでは、その概略と含意を紹介したい。

今回公表された厚生労働省「将来の厚生年金・国民年金の財政見通し」は、いわゆる「年金の財政検証」と呼ばれる。拙稿「年金は、本当に『100年安心』なのか 5年に1度の「年金の大イベント」が始まった」でも詳述したように、5年に1度、わが国の公的年金のおおむね100年間にわたる収支見通しを作成し、年金財政の健全性を検証するのが「年金の財政検証」である。要するに、わが国の公的年金が「100年安心」かどうかを検証するのである。

以下では、公表されてまだ4時間半しかたっていない段階だが、現時点でわかるところから今回の「年金の財政検証」結果を検証したい。


年金の財政検証の検証

今回の財政検証の結果は、公表する前から自明だった。

主立った結論は、「わが国の公的年金はおおむね『100年安心』」である。

ここでいう「100年安心」とは、2018年度以降保険料(率)を上げずに、マクロ経済スライド制を発動して少子高齢化に対応した給付抑制を行うとしても、所得代替率(給付水準調整終了後)が50%を下回らないように給付でき、おおむね100年後に年金積立金は払底しないことと言い換えてよい。

前掲拙稿「年金は、本当に『100年安心』なのか」で、今年3月の段階で明言していたのだが、上記の結論に驚きはない。なぜなら、主要なシナリオの経済前提が「楽観的」だったからである。

前掲の「将来の厚生年金・国民年金の財政見通し」におけるケースAでは、物価上昇率が2%、賃金上昇率が2.2~2.5%、年金積立金の実質運用利回り(対物価上昇率)が2.9~4.0%となっている。つまり、年金積立金の「名目」運用利回りは4.9~6.0%という高い率になっている。その背景については、前掲拙稿「年金は、本当に『100年安心』なのか」に委ねるとして、ここでは、この検証結果をどう理解すればよいかに焦点を当てたい。

確かに、前掲の検証結果は、「アベノミクスケース」が100年続けば年金は「100年安心」といえる。もう少し丁寧に言えば、今年1月に公表された内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(略して中長期試算)で「経済再生ケース」(2013~2022年度の平均名目成長率が3.4%)が実現してその後も継続するという「アベノミクスケース」を想定する(ケースA~E)と、2018年度以降保険料(率)を上げずに、マクロ経済スライド制を発動して少子高齢化に対応した給付抑制を行うとしても、所得代替率が50%を下回らないように給付でき、おおむね100年後に年金積立金は払底しない結果が示されている。

他方、同じ内閣府の中長期試算で「参考ケース」(2013~2022年度の平均名目成長率が2.1%)となりその後もこれが継続すると想定する(ケースF~H)と、所得代替率が50%を下回らないように機械的に給付水準調整を続けると、国民年金は2055年度に積立金がなくなることを、公式に認めた。

経済成長率が低ければ、給付調整を行っても、所得代替率が50%を下回らないように維持しようとすれば、国民年金の積立金がやがて払底するという、一見すると衝撃的な結果と思われる。

しかし、これを率直に示しているからにはカラクリがある。それは、国民年金の積立金がなくなった後は、完全な賦課方式に移行するものとして、それ以降の年金財政の将来見通しを公表している。ちなみに、完全な賦課方式に移行した後、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は、所得代替率35%~37%程度という。

別の言い方をすれば、年金の積立金が払底=年金財政は破綻、ということではなく、単に完全な賦課方式に移行して継続でき、積立金がなくなった分給付は減るが、それは予定していた給付の2割減で済む、と言っているだけのことである。

積立金の払底をどう理解すればよいか

経済成長率が低ければ、給付水準を維持しようとすれば、国民年金の積立金が払底するから、わが国の公的年金はやがて破綻する、と見るのは早計である。なぜなら、完全な賦課方式の年金になっても、給付は(減るとはいえ)ある程度出せるからである。

「年金の積立金が払底=年金財政は破綻」という見方に立っては、建設的な年金改革の議論はできない。さりとて、楽観的な経済前提の下で年金は「100年安心」という結果を見て、改革は不要と判断すべきではない。

ならば、今後の焦点は何か。このような国民年金の積立金の払底を回避するには、どんな年金改革に着手すべきかを逃げずに検討することと、そして改革課題について冷静になってどう合意形成を図るかである。

次回【年金の財政検証の検証2】では、今早急に必要な年金改革の論点を、今回の「年金の財政検証」の結果を踏まえて検証したい。

土居丈朗(@takero_doi

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
土居 丈朗
慶應義塾大学経済学部教授

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑