羽田成田の直結鉄道は誰も利用しない

前田 陽次郎

今日(2014年6月15日)の日経新聞で、羽田成田を直結させる鉄道を建設しよう、という話が記事になっている。

この話は何度も出て来るのだが、果たして羽田と成田を直接移動するための鉄道は必要なのだろうか。普段から羽田成田を移動している地方在住者の立場で意見を述べる。


結論から言えば、必要度の低い公共事業を行うために、関東住民の理解を得られそうなネタを作っているだけのことである。地方で公共事業を行うことに対しては、関東住民からの批判が強いが、関東で公共事業を行うのであれば、関東住民からの批判は起こりにくい、という現実を突いているのだ。

「必要性」の根拠を地元負担という点から客観的に考えてみたい。例えば整備新幹線では地元負担があっても建設したいとの地元の声が強いが、この羽田成田直結鉄道については、地元負担を嫌って、少なくとも東京都知事が舛添氏の間は、具体化することはないように感じられる。都知事が必要性を認めていないのだ。

羽田成田直結鉄道の必要性について、2つの点から考えてみる。

1つは、そもそも羽田成田の移動は不便なのか、ということ、もう1つは、不便だとしても本当に鉄道が必要なのか、ということである。

まず羽田成田の移動が不便なのか。普段から移動している立場から印象をいえば、確かに不便ではあるけど、実はそこまで不便ではない。

その理由は、リムジンバスが高頻度で両空港を結んでいるし、このリムジンバスは、あらゆるルートを使って、とにかく遅れないように努力をしてくれる、ということだ。

そのため、同一航空会社であれば、羽田国内線と成田国際線の最短乗継時間は3時間に設定してある。国際線の乗継で3時間というのは、接続便の都合で、外国の空港で乗り継ぐ場合にもごく普通に必要になる。だから、決して不便と言いきれる時間ではない。

地方空港から国際線への乗継をすることを考えてみる。いくらソウル仁川空港の接続時間が45分に設定されているからといって、45分に近い時間で乗り継ぐことは、便数の都合上まず不可能である。地方空港と仁川を結ぶ路線が1日3~4本設定されているなら、比較的短時間で乗継できるかもしれないが、現実にそういう空港はない。

一方、地方と羽田を結ぶ路線は、比較的高頻度である所が多い。だから3時間に近い時間で乗継が可能で、ソウル乗継より羽田成田乗継の方が遥かに便利なのである。

ちなみに一時期、地方空港から海外へ行く人は、みんなソウル経由で成田を利用していない、という話が大きく広まった。これも羽田を国際化して東京の人が成田まで行かずに海外へ行けるようにするため、羽田のインフラ整備(公共事業誘致)を正当化する印象操作である。実際に地方からソウル経由で第三国に行く旅客の数は、羽田成田乗継客の1割以下しかいないのである。そして、以前アゴラにも書いた通り、羽田空港ですら巨大な経常赤字を生み出す原因になるD滑走路を建設したのだ。

次に本当に直結鉄道が必要なのか、という点である。

現状、多くの人はリムジンバスを利用して羽田成田間を移動している。

リムジンバスであれば、到着口で荷物を受け取って、同じフロアでバスに乗れ(しかも荷物の積み下ろしはリムジンバスの係員がやってくれる)、空港に着いたら、これまた同じフロアの移動だけでチェックイン手続きができる。これが本当に便利なのである。

もし鉄道ができればどうだろうか。

羽田にしても成田にしても、駅のホームは地下にある。地下まで海外旅行の大きな荷物を運ばないといけない。これは本当に不便である。

私の場合、ターンテーブルで荷物を受けとると、その場で空港備え付けのカートに乗せて、バスまで運ぶことが多い。バスの前まで荷物を持っていけば、ほとんどの場合、カートはリムジンバスの係員が所定の位置まで返してくれる。ところが鉄道になると、カートを鉄道のホームまで持ち込むことは、基本的に不可能である。そして、荷物は自分で車内に積み込まないといけない。

ここまでの手間をかけて、果たして羽田成田の乗継客が鉄道を利用するだろうか。

所要時間はどうだろうか。

現状、リムジンバスの所要時間は羽田第一ターミナルから成田第二ターミナルまで1時間15分である。鉄道が両空港間を30分で結べるのなら(リニアでも引かないと不可能)、鉄道を利用するかもしれない。しかし、羽田で到着口から駅のホームまで10分、成田に着いてからチェックインカウンターまで10分かかると、もう50分。バスは10~20分間隔だから、あまり待たずに乗れるけど、鉄道が40分間隔だったら、30分位待たされるかもしれない。となると、仮に羽田と成田を結ぶ鉄道が所要時間30分であったとしても、バスに対する時間的優位性は無いのである。

もちろん官僚もその辺はわかっていると思われる。最初に挙げた日経新聞の記事を読んでも、「羽田と成田を結ぶ鉄道」とは書いていても、「東京駅と羽田・成田の所要時間を短縮する」ということだけが書かれており、「羽田成田の移動を便利にする」ことに関しては一切触れられていない。

しかし、こういう容易に誤解を招く記事を書けば、後は勝手に「羽田成田の移動を便利にさせる鉄道は必要だ」と発言力のある人が騒いでくれるので、世論をミスリードさせることは可能なのである。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師