東京への人口集中は進む

前田 陽次郎

昔聞いたような話だなあ、というテーマの投稿がアゴラに2つあったので、それについてコメントしたい。

1つは岡本裕明氏の「地方回帰」はこれから大きな潮流になるで、もう1つは大谷由実氏の極点社会を考える ~ 東京一極集中はやめようだ。

実際に今後どうなるかを考えるには、今までどうなってきたかを振り返る必要がある。 岡本氏の記事に私がコメントを付けたが、こういう話は今から20年前に盛んに言われており、じゃあこの20年でどうなったか、ということを振り返りたい。

結論から言えば、県庁所在地への人口集中は、10年程前までで陰りを見せ、現在では半数ほどの県庁所在地は人口減少に転じている。そして「札仙広福」(札幌・仙台・広島・福岡)と呼ばれる地方の中心都市も、福岡以外はそろそろ危ないと言われ始めている。

では何故こうなっているのか。 理由は池田信夫氏が「ものづくり」から都市間競争へ – 『年収は「住むところ」で決まる』で書かれている通りなのであるが、日本の実例に沿って、補足説明をしたい。

 日本の産業構造が第1・2次産業中心から第3次産業中心に変化してきた。そうなると、人口が多い都市も第3次産業を中心とした都市になるのは、当然の流れであった。

典型的な事例が、北九州市と福岡市の関係である。

かつては工業都市が人口の多い都市であった。九州の人口1位の都市も北九州市であったのだが、日本の産業構造の変化に合わせて、商業の中心地である福岡市が大きく伸びて、今は福岡市が伸び、北九州市が衰退するという動きが続いている。

全国的に見ても、企業の支店が多かった県庁所在地に、周辺の農村から人が集まってきた。農家の子息が農業を継がず、あるいは兼業先として、県庁所在地の企業に就職した。

そして交通や通信手段の発達により、企業は支店を各県から各地方へと集約してきた。地方の中心都市である札幌仙台広島福岡という都市が、それぞれの地方全域から人間を吸引してきたのである。

それがどうなるか。いよいよ全部東京に吸引されようとしているのが現状である。

札仙広福の中では、まず仙台が脱落すると言われていた。その理由は、4都市の中で一番東京に近いので、一番東京に吸われる、ということだ。

私は15年ほど前に仙台の予備校で講師をしていたが、その時に、東北の私学の雄・東北学院大学の人気凋落傾向に歯止めがかからないという話を聞いた。東北大学の人気は高いが、私立に行くのなら東京に出るという生徒が多い、という理由からである。このように、就労者だけでなく学生も東京に吸われる。そして大学進学時に東京に吸われた人材を地元に戻すのは困難である。

情報通信技術の発達により、住む場所に関わらず仕事ができるという幻想が生まれたが、実際にどうなっているかといえば、特に企業の場合は、その情報通信技術を使いこなせる高度な技術者を集めるために、東京に活動の拠点を置く必要が出てきている。

典型的なのが「ジャパネットたかた」である。あれだけ長崎の佐世保にこだわってきた企業が、ついに東京にも拠点を置いた。そして、その最大の収穫はヒトの問題だ、と副社長が語っている。

ではこのまま永遠に東京一極集中が進むのか。それはわからない。

地震で東京が壊滅状態になる、という可能性もあるが、本当に集中し続けることにメリットがあるのか、ということもある。

たとえば集中が進めば土地代が高くなる。そこにさらにインフラ整備するコストが、分散化するより低いのか、ということだ。

今でも羽田空港の経常損益をみると、全国の空港の中で群を抜いて大赤字である。 それは馬鹿高いコストをかけたD滑走路の建設に起因する減価償却費が大きすぎるからなのだが、こういう赤字を税金で帳消しにして、さらに1兆円をかけて滑走路を増設したりするのと、関西空港や中部空港に需要を分散させるようなシステムを作るのと、どちらが優位なのか、という議論は成り立つ。

最初の方に、 「札仙広福」の中では福岡は大丈夫だ、ということを書いた。これも、福岡はアジアに近いので、その地の利を活かして、産業を伸ばす優位性があるからだと説明されている。

実際に、アジア各地と結ぶ福岡からの航空路は数多く開設され、そのためもあり、福岡空港は容量が不足している。 福岡空港の容量問題は、福岡のアキレス腱でもあるのだが。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師