人間にはどれくらいの居住スペースが必要か --- 岡本 裕明

アゴラ

ライフスタイルの変化は居住スタイルの変化と密接なつながりがあると考えられています。私が北米のライフスタイルと住宅の進化をいつも興味深く見ているのはこの流れが日本も含め、世界に波及しやすいことがあるからでしょうか?


かつて北米では人は戸建てに住むことが通例でありました。バンクーバーの場合、70年代までは分譲マンション(=コンドミニアム)という発想すらなく、法的な区分所有権は存在しませんでした。バンクーバーを含め、カナダは歴史的に東ヨーロッパからの移民が多く、都市部でアパートに住み、職住接近というコンセプトを自然に受け入れていたことから街じゅうに高層賃貸アパートが60年代から作られ始めました。

一方のアメリカは住宅は戸建てという発想は割と最近まで主流であり、ダウンタウンの高層マンションに住む発想は90年代半ば以降にようやく一般的になり始めたといってよいでしょう。ドナルド・トランプの生み出したアーバンライフのイメージの影響力もあったかもしれません。それまでは一部の地域、例えばニューヨークやフロリダのウォーターフロントのようなところは別として全米の主要都市部でもコンドミニアムという四角い狭いコンクリートの箱の中に住むことを受け入れるにはかなり抵抗があった発想なのです。

バンクーバーは北米の中でも最もコンドミニアムライフが進んでいる地のひとつであり、インテリアデザイナーも当地から北米各地に出稼ぎに行ったりしているライフスタイル先進都市です。そのバンクーバーに於いて次のジェネレーションの住宅は「より小さく」というのがテーマになりそうな気配であります。

90年代のコンドミニアムは120㎡程度ないと戸建てからの移り住みはサイズ的に困難と言われていました。ところがジェネレーションXとかYといったその子供、孫に至っては高騰するバンクーバーのコンドミニアムに手が届かないため、親が戸建てから価格の安いコンドに移り住み、余った資金の一部を子供の購入するコンドミニアムの頭金にするなど資産の親から子への移動と共にサイズが狭小化しているとされています。

また、家族の人数が減っていることもあり、部屋数が減っているというのもサイズが小さくなる理由の一つです。私が開発した600戸以上のコンドミニアムに3ベッドルーム(いわゆる3LDK)は一部のペントハウス以外ありません。最近開発されている物件もまず、3ベッドルームのコンドは都心近くにはありません。

ところが日本の分譲マンションは間取りがいかにも不思議であります。なぜ、80㎡のマンションに4部屋も作るのか、核家族化が進み、人を家に招く習慣があまりないのに不思議そのものであるのです(夫婦別々の部屋=自分の「城」が欲しい、という独特の理由は理解できますが)。

占有するサイズが小さくなる代わりにアメニティが充実していることが今後売れる物件のポイントになるかと思います。それは利便性というロケーションの選択も含まれます。高齢になると必要なのはコミュニティ、環境、商店やレストランへのアクセサビリティなどを含むアメニティを提供しなくてはなりません。部屋数が多いと開かずの間が出来たり、掃除ができない、片づけられないという問題もあるのでしょう。

私の考えるこれからのマンションとは高機能のワンベッドルーム(日本の1LDK)プラスホテルの部屋のような有償のビジタールームがアメニティとして備わっているような物件が私の想像する20年後の住居スタイルかなと思います。親や友人が来たらホテルのような来客ルームに泊まっていただくことで年に数度しか使わない来客用の開かずの和室は不必要になります。

ライフスタイルのチェンジ、今日は居住空間から考えてみましたが、アメニティやレイアウトについても機会があれば書いてみたいと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年6月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。