東電社長に対して「厚顔無恥」と言い放ったジャーナリストの論拠の薄弱さ

2014年07月17日 02:08

7月12日にYahoo! ニュース個人に掲載されたある記事について、エネルギー業界の人々がtwitterで話題にしていたので読んでみたところ、ちょっと想像を絶するほどの低レベルな内容だったのでここに記録しておくことにします。

要点を手短に書くと、あるジャーナリストがいくつかの根拠を挙げて、「もしこの疑いが本当なら東電は極めて厚顔無恥な会社である」と言い放ったのですが、その根拠がどれもこれも電力に詳しい人間に聞けばすぐにわかるような事実無根なものであり、当該ジャーナリスト氏が思い込みで記事を書いていてまともな人物に取材をしていないこと、電力システムや基本的な企業会計についての知識もまるでないことが明らかな記事である、ということです。

具体的には下記の2つの記事が問題です。

暑い夏がやってきた!だが、東電は原発再稼働なしで、関電・九電に売るほどの電力がある(上)(まさのあつこ)
暑い夏がやってきた!だが、東電は原発再稼働なしで、関電・九電に売るほどの電力がある(下)(まさのあつこ)

この中で著者のまさのあつこ氏はざっと次のようなことを書いています。

【広瀬証言1】東電の広瀬社長は、「原子力のキャパシティは1700万kWである」と語った
【広瀬証言2】さらに「その1700万kWを動かせないことが、電気料金が上がる理由のひとつ」と広瀬社長は語った
【批判1】しかし、実際に東電が震災前に原子力で発電していたのは1000万kWでしかない
【批判2】しかも、実際の東電の原子力発電所の出力容量を合計しても1450万kWにしかならない。1700万kWの数字はどこから出てきたのか。
【批判3】足りない約300万kWについては、東電が青森県に新設予定の東通原発の出力を計算に入れているのではないか。まだ出来ていない原発の出力を「動かせない」数字に入れて影響を大きく見せようとしているとしたらそれは厚顔無恥すぎる

以上、広瀬証言1,2に対して批判1~3を語っているのですが、実際のところどうなのか検証してみましょう。

まず【批判1】について、まさのあつこ氏は2010年7月23日というわずか一日のデータを根拠に「震災前に東電が原子力で発電していたのは1000万kWしかない」と主張していますが、実際のところはどうなのか、平成25年度の「数表で見る東京電力」という資料を参照してみましょう。

→ 平成25年度 数表で見る東京電力 (PDF)

この中のp.36に「エネルギー別発電電力量構成比の推移(含他社受電)」というグラフがあります。2010年度つまり平成22年の原子力比率28%は決して過去最高だったわけではありません。平成11~13年の原子力比率は42~44%に達しています。つまり原子力で1000万kW以上の出力を出していた時期もあったと考えられます。

そこで、p.35の「(4)発受電電力量」という表を見てみましょう。これを見ると、平成13年(2001年)の東京電力の原子力発電による発電電力量は1215億kWhだったことがわかります。これを1年間の時間数である365×24=8760時間で割ると

1387万kW

これが平成13年の東京電力の原子力発電の出力平均値ですので、日によってはこれを超える日もあったことでしょう。

電気事業連合会の資料によると、「日本の原子力発電所の平均設備利用率は、2010年まではおおむね80%程度だった」そうです。

→ 原子力発電所 設備利用率 (電気事業連合会)

1700万kWに80%をかけると約1384万kWになります。先ほどの1387万kWという数字に近く、つじつまが合います。

というわけで、まさのあつこ氏の批判1、「実際に東電が震災前に原子力で発電していたのは1000万kWでしかない」というのは事実ではありません。「2010年の最大電力需要日には1000万kWしか出せなかった」だけで、実際にはそれ以上に使いたかったと見るのが正しいです。

というのも、2010年というのは2007年の新潟県中越沖地震の余波でまだ東電の柏崎刈羽原子力発電所が完全ではなかった時期なのです。地震対策を追加して少しずつ稼働を進めていたのが2010年であり、そうした異常な時期を根拠に語るのがそもそも間違っています。ということを、電力事情に詳しい人なら知っているはずなのですが・・・・まさの氏はいったい誰に取材したのでしょうか。

次に批判2です。「東電の原子力発電所の出力容量を合計しても1450万kWにしかならない」とまさの氏は批判していますが、当の本人が引用している東京電力の原子力発電所一覧表の、ユニットごとの出力の数字を全部足すと1730万kWになることに気がつかなかったのでしょうか。
電力業界の人間なら、東電の原子力発電所設備容量が約1700万kWあるのは常識のようなものですし、門外漢の私でも足し算するだけですぐにわかることなのですが。
まあ、同情の余地がないわけじゃありません。まさの氏が引用している東電の資料には一部誤解を招きやすい部分があり、福島第1原発について1~6号機の総出力を「188.4万kW」と書いてしまっているんですね。これをそのまま鵜呑みにすると確かに「1450万kW」になりますが、まさの氏はこういう書き方をしています。

今さらながら、この記事を書くにあたって広瀬社長の言った「1700万kW」を確認しようとすると、計算が合わないではないか。福島第一原発(約180万kW)と第2原発(約440万kW)と柏崎刈羽原発(約820万kW)を全部足しても、1450万kW弱である

まさの氏、福島第1原発(約180万kW)と書いて疑問に思わなかったんでしょうか。たったそれだけのはずがないじゃないですか。これは原発事故で廃止に1~4号機を除外して5,6号機だけを集計した数字であり、震災前は合計で約470万kWあったんですから。電力業界とは何の関係もない私でさえ知ってることですよ、これは。

というわけで批判2についてもまさのあつこ氏の主張は事実無根です。
それにしても驚かざるを得ないのは、東電がきちんと公開している一次資料をたどって足し算をすれば分かる程度の単純な事実を検算もせずに東電批判の論陣を張っているということです。

残った批判3について、まさのあつこ氏が書いた原文はこの通りです。

あと約300万kWはどこかと探していると、東電が福島第一原発事故前から青森県に東通原発(約340万kW)を新設予定で、今も粛々と手続を進めていることに気づき驚愕した。しかし、いくらなんでも広瀬社長のいう「1700万kW」の計算に入れていはいないだろう?!もしそうなら厚顔無恥過ぎる。何かの勘違いであると思うことにする。

その通り、まさの氏の勘違いです。しかし、この書き方は完全に「厚顔無恥」の部分を印象づけることを狙ってますね。「何かの勘違いであると思うことにする」という言葉を入れて「そうと断定したわけじゃありません」という言い訳が出来るようにした上で「もしそうなら厚顔無恥すぎる」と書いているわけです。

もう一つ不思議なのは「東通原発(約340万kW)」というのはいったいどこにあるのでしょうか。東電が東通で建設計画を進めているのは2機合わせて270万強であり、340万kWにはなりません。このあたりからも、まさの氏が数字を粗雑に扱う「ジャーナリスト」であることがうかがい知れます。それでいて、まさのあつこ氏は「工学博士」だそうです。正直、理解しがたいです。

本稿で検証したとおり、批判1,2のいずれもまさの氏の勘違いですし、こんなことは電力業界に詳しい人に聞けば一発でわかるような単純な事実誤認です。その程度の裏取りもせずに「厚顔無恥」という言葉を投げかけるようでは、記者としての能力も倫理意識も疑わざるを得ません。

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