LINEがIPOするそうだ。時価総額は1兆円だという。それは結構なことだが、ITは無限に成長する産業なのだろうか。おりからFRBのイエレン議長が「ソーシャルメディア株やバイオテク株は過大評価されている」とコメントして話題を呼んだが、これが経済学者の多数意見だろう。ちょっと前に、Robert Gordonの論文は「アメリカの壮大なITバブルが終わった」と宣告して話題を呼んだ。
アメリカの一人あたりGDP成長率(Gordon)
彼によれば、産業革命以降の最大のイノベーションは蒸気機関(1750~)であり、それに次いで電力(1870~)、次いでコンピュータ(1960~)だった。しかし蒸気機関や電力がGDPを大きく高めたのに対して、コンピュータはその使い方を効率化したが、GDP(生産物の市場価値)はあまり増えていない。
マイクロソフトやアップルやグーグルといった少数の独占企業に利益が集中し、インターネット企業は無料なので、サービスの規模は大きいが利益は少ない。ITへの幻想も2000年のバブル崩壊で終わり、今はアメリカの一人あたり成長率は1.5%を下回っている。これは今世紀中に0.5%以下になるだろう――というものだ。
ゴードンはITバブルのときから悲観派なので、こういう予測は当然だが、タイラー・コーウェンも似たような予想をしている。ピケティは「ゴードンは悲観的すぎる」として、世界全体で今世紀中に一人あたり1~1.5%になると予想している。今は新興国がアメリカにキャッチアップしているので見かけ上の成長率は高いが、アメリカが技術的フロンティアなので、2050年以降は中国もそこに収斂するだろうという。
こう考えると「デフレ脱却で3%成長」なんて幻想もいいところで、日本も労働者一人あたり1.5%という今の成長率を維持するのが精一杯だろう。これはソロー的な定常状態なので、これを上げるには生産要素の流動性を高めて生産性を上げるしかない。
ピケティの楽観的予想は、今後も大きなイノベーションが続くという前提にもとづいているが、彼が想定しているイノベーションはITやバイオではなく、エネルギー産業だ。化石燃料には限界があるが、原子力の潜在的な可能性は非常に大きい。これはビル・ゲイツの意見と同じだ。
ウラン235の核分裂エネルギーは石炭の300万倍(kgあたり)で、埋蔵量は9000年分ある。今はそれを非効率に利用して石炭と同じぐらいのコストで使っているが、その障害は技術ではなく政治だ。エネルギーは日本の得意分野なので、また日本企業の出番があるかもしれない――政治さえ賢明になれば。