節税のために海外移住をする人たちの理由 --- 岡本 裕明

アゴラ

シンガポールに移住する日本人富裕層は相変わらず多いようです。その魅力の一つに株式からの収益(キャピタルゲイン)課税がゼロだということでしょうか? 所得税も最大20%ですので確かに富裕層とその取り巻きビジネス(=富裕層相手のサービス業)には最適かもしれません。

同国は国土が東京23区程度で人口は540万人にとどまります。人口密度が高いとはいえ、国家の成長に製造業などは不向きであると言えます。香港も同様なのですが、結果として小国の場合、魅力的な税制を打ち出し、金融大国となり富裕者層を増やす戦略をとることが多いようです。ヨーロッパでも例えばルクセンブルクは名だたる金融大国です。ちなみに同国の一人当たりGDPは世界一としても有名であります。つまり、小国で魅力的な税制で金融業などを推進する場合、富裕層が集まりやすいという特性があるともいえるのです。


今やネットと電話があればどこでもできると言われる代表的ビジネスが投資事業でそのようなビジネスをしている日本の富裕層が海外脱出していると言われています。一部の富裕層の方はシンガポールに相続を目的として脱出していますがこれは個人的にはハードルが高いと思っています。

では、日本がシンガポール程とは言わないまでも魅力的な税制になった場合、変化は起きるのでしょうか?

基本的に税金が安いことのメリットは外国企業や富裕層の誘致がしやすいことだと思います。イギリスは法人税率の引き下げでイギリス企業の回帰も含め、先進国では圧倒的な経済回復力となり、利上げ候補ナンバーワンであります。

ただイギリスのように圧倒的水準ならともかくも低い法人税で国内空洞化を防げるかどうかは別問題だと思います。理由は製造業の位置づけが大きく変わってきたからです。一言でいえば地産池消と称する現地に合わせたマーケティングと現地部品調達率の引き上げで製造業者の製造拠点の選択はもはや消費者や顧客の都合が主導するからであります。

ところで日本が何のために法人税を引き下げるのか、この目的論が最近不明瞭になってきた気がします。消費税を上げるから、あるいは相続税を上げ、その引き換えに法人税を下げるという税金を取り巻くディールの話をしているのでしょうか、それとも他国と比較して高すぎる法人税を改善して日本に魅力的な投資環境を備えた国家としたいのでしょうか?

もしも外国企業や富裕層を取り込みたいなら株式や不動産を通じたキャピタルゲイン課税を大幅に減じればよいでしょう。例えば不動産の譲渡利益に対する課税を減らせば外国からの不動産投資は圧倒的に増えます。ですが外国人が所有する不動産が増えることに国家として喜ばしいことと思うのかどうかそこは検討課題として残ります。

では金融の場合はどうでしょうか? 私は富裕層は来るかもしれないし、そこで住む限り一定の消費をしますが、最大の問題点は投資家は多くの雇用を生まないデメリットがあるとみています。先ほども申し上げましたようにネットと電話があればビジネスができる、つまりスマホを雇用しているようなものなのです。(もっとも今は雇用よりも総需要引上げかもしれませんが。)

また、日本はインフラ整備が非常に進んでいるのですが、今後、これらのインフラを維持するための修繕、建替えなどに再び膨大な資金を要する中、社会保障費を含め税収不足は慢性的に起きる可能性が高いとみています。私は税制をいじくるのではない全く違う方法が存在すると考えています。考えがまとまったらご紹介します。

最後に、富裕層はなぜ節税のために海外移住するのでしょうか? 一財を築いた人にとって家も車もあれば後はそれほど使えるものではありません。そこまでするのは「国家(=国税)に取られたくない」という財を築いた人なりの抵抗ではないでしょうか? そして財を築くのと同様、節税に於ける勝者になりたいと考えているようにみえます。もう一つ、金持ちは金持ちの世界が好き。そこには努力したものだけが報われるという別の世界が存在します。私の知る限り彼らのセレブライフの充足感が結果としてシンガポール移住を引き立たせるのではないかと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年7月30日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。