日本の「お・も・て・な・し」は、なぜ世界一なのか? --- 内藤 忍

アゴラ

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日本に帰ってくると、いつも感動すら覚えるのが、サービスのレベルの高さです。

今回、成田空港に着いて、リムジンバスに乗ろうとすると、目的地までのバスの出発は1時間後でした。すると、受付の女性が10分後に出発する別の行先のバスはいかがですかと、近くの目的地に行くバスを教えてくれました。行先を行っただけなのに、近くに行くバスがあることを、気を利かせてわざわざ教えてくれたのです。お蔭で1時間以上早く出発することができ、帰宅時間がグッと前倒しになりました。

リムジンバスに乗ると、お客さんがほとんどいません。そんな出発する時にバスに向かって、搭乗時に乗り場の受付をしてくれた女性が、深々とお辞儀をずっとしています。高級旅館のお見送りのような丁寧なサービスです。


さらに、今度はタクシーに乗ると、運転手さんがスーツケースをトランクに収めてくれます。スーツケースの両端を丁寧に持って、入れていきます。暑い中、汗だくになっている姿を見ていると頭が下がります。

日本の驚くべきことは、このような高級レストランや高級ホテルでしか見られないようなクオリティのサービスが、どこでも当たり前のように行われていることです。しかも、日本にはチップ制度はありません。自分の与えられた仕事だけをやっていても、何も咎められることはないのに、その上を目指すサービスを経済的な見返りが無いにも関わらず提供しているのです。

とある国では、ショッピングモールのインフォメーションセンターの受付に道を聞いたら「わからない」という回答でした。調べることもせず、まったくやる気が感じられない対応。日本のサービスとは対照的でした。

このような日本人の過剰とも言えるサービス提供は、どこから来ているのでしょうか?

日本人が「職人」気質だから、というのが私の仮説です。

職人として自分が与えられた仕事を極限まで極めようとする。それは、誰かに指示されているとか、マニュアルに書いてあるからではありません。自分なりに工夫して最高レベルを提供すること自体が、やりがいのある自己成長の積み重ねになるのです。日々腕を磨いている職人のように、自分の仕事に取り組む姿勢の人が多いのが日本のサービスレベルを上げているのだと思います。

これは良いことでもありますが、一方で過剰な負荷をかけることにもつながっていると思います。マニュアルに定められたことを極め、さらに高みを目指して努力することは、やりがいを伴うかもしれませんが、不必要な仕事を増やすことにもなるからです。

職人気質のサービスは提供される側にとっては極めて快適ですが、提供する側にとっては人によっては、苦痛を伴うものなのかもしれません。世界一の「お・も・て・な・し」サービスは、提供者側の犠牲によって成り立っている部分もあることを忘れてはいけないと思います。

編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2014年8月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。