なぜ彼らは戦地に向かうか --- 長谷川 良

アゴラ

オーストリアで8月18日、イスラムの聖戦に参戦するためシリアに向かおうとした10人(17歳から32歳)がケルンテン州とブルゲンランド州国境でオーストリア連邦憲法保護・テロ対策局(BVT)と内務省特別部隊(コブラ)によって拘束された。チェチェン人の難民8人と1人はトルコ系のオーストリア人だ。残り1人は未成年(17歳)のためすぐに釈放された。

彼らは目立たないように、2グループに分かれ、バルカンルートを経てトルコに入り、そこからシリア入りする予定だったという。9人の中にはBVTが監視してきたイスラム過激派グループとの接触があるとしてマークしてきた人物が含まれていたという。シリア行きをオーガナイズした人物はトルコ系のオーストリア人という。


欧州からシリア、イラクの内戦に参戦している数は約2000人と推定されている。最大の聖戦参加者数はフランス国籍を有する欧州人で、その数は約900人だ。それに次いで約500人が英国人、そしてドイツ人の400人と続く。BVTによれば、当方が住むオーストリアからは約100人が聖戦に参加。そのうち60人はシリアに行った。22人が戦死し、約40人はシリアからオーストリアに戻ってきているという。

米人ジャーナリストがイスラ教スンニ派過激テロ組織「イスラム国」(IS)によって首をはねられて殺害されたが、その殺害者が聖戦に参加している英国人だといわれている。キャメロン英首相はその直後、「英国内の過激イスラム教徒の監視を強化する」と表明している。

ところで、欧州には約1400万人のユーロ・イスラムがいる。ユーロ・イスラムとは、欧州に定住し、世俗化したイスラム教徒を指す。多くの欧州諸国では、イスラム教はキリスト教に次いで第2の宗教と公認されている。彼らの多くは、イスラム教徒移住者の2世、3世だ。また、今回のチェチェン人のように欧州にきて、正式に難民として認められ、国籍を獲得したケースも増えてきている。

それでは、ユーロ・イスラムがどのようにして“ホームグロウン・テロリスト”となっていくのだろうか。オーストリアでも今年、15歳と16歳の2人の少女が「シリアの内戦に参戦する」という連絡を残し、ウィーンから突然姿を消した。彼女たちはフェイスブックで「心配しないでほしい。私たちはアラーのために命を捧げる」というメッセージを残していた。

オーストリアの社会学者は、「彼らは社会に統合できないで苦しんできた。言語問題だけではない。仕事も見つからず、劣等感に悩まされるイスラム系青年も少なくない。そこで聖戦のために命を懸けるべきだというイデオロギーに接した場合、彼らはそれに急速に傾斜していく」と分析する。

たとえば、オーストリアのイスラム系若者が仕事を探す場合、企業側はイスラム系の名前の求職者を敬遠する傾向があり、独語名の若者を優先する。そのためイスラム系若者の失業者が多くなるわけだ。彼らは、なかなか仕事にありつけないだけでなく、生きがいも見つからない現実がある。特に、米国内多発テロ事件後、欧州社会でもイスラム・フォビアのが強くなった。

欧州諸国は、国内の過激なイスラム教徒の監視を強めると同時に、イスラム系若者たちの雇用拡大など、社会統合によりいっそう努力すべきだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年8月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。