「広い意味の強制」って何?

池田 信夫

こども版でも解説してきた「慰安婦」の嘘を朝日新聞が認めて、社長があやまりました。嘘をついたら訂正してあやまることが大事なので、これはほめてあげたいと思います。しかし、よく聞いてみると、肝心のところは訂正していません。


記者の「多くの朝鮮人女性が無理やり連れて行かれたという見解は変わらないのか?」という質問に対して、杉浦信之さん(編集担当役員)は「強制連行は、そういった事実はないと認めた。しかし、いわゆる慰安婦、自らの意思に反して軍に性的なものを強いられる。広い意味での強制性はあったと考えている」と答えました。

「強制連行はない」というのは、8月5日の記事の「強制連行の定義は研究者の間で今も対立する状況が続いている」という話と違いますが、大丈夫でしょうか。朝日の「慰安婦の強制連行」の記事は1046本もあるんですが、取り消さないんでしょうか?

もっと大事なのは「広い意味での強制性」ということばです。「強制」というのは『大辞林』によると「力によって他人を従わせること」だそうですから、いろいろな意味に使えます。たとえばよい子のみなさんが宿題をしないとき、お母さんが「宿題が終わるまでおやつはあげないわよ」というと、これも広い意味の強制です。

このことばを発明した吉見義明さんによると、植民地では「たとえ本人が、自由意思でその道を選んだようにみえるときでも、実は、植民地支配、貧困、失業など何らかの強制の結果」なのだそうです。つまり

 A.植民地で行なわれることはすべて強制である
 B.朝鮮人慰安婦の募集はすべて植民地で行なわれた
 C.朝鮮人慰安婦はすべて強制である

ということです。こういう場合、AとBが成り立つ場合は、Cは必ず成り立ちます。たとえばA「動物は呼吸している」ということと、B「人間は動物である」ということが正しければ、C「人間は呼吸している」という結論は100%正しい。図で描くと、こんな感じです。

強制
植民地で行なわれることはすべて強制に含まれ、朝鮮人慰安婦は植民地に含まれているので、朝鮮人慰安婦はすべて強制なのです。これはひとりひとりの慰安婦に調査する必要もありません。よい子のみなさんでも、この図を見ればわかりますね。こんな簡単なことになぜ大騒ぎしていたのでしょうか?

ここで大事なことは、Aに含まれています。吉見さんのように「自由意思で選んでも強制」と定義すれば、Aは必ず成り立ちます。Cはそれをくり返しているだけです。こういう理屈を同語反復といいます。これは100%正しいのですが、意味がありません。朝日新聞や吉見さんが「慰安婦は強制と定義したから強制だ」といっているだけです。

これぐらいのことは、よい子のみなさんでもわかると思いますが、朝日新聞のえらい人はまだわからないんでしょうか。それとも「わかった」というと、今までの「広い意味の強制」についての記事も全部取り消すはめになるからでしょうか。大人の世界では、簡単なことをややこしくするんですね。