「下剋上」をもたらす動機の純粋性 - 『二・二六事件と青年将校』

2014年09月19日 14:50
二・二六事件と青年将校 (敗者の日本史)
筒井 清忠
吉川弘文館
★★★★★



朝日新聞の大誤報を「日本をおとしめる売国奴」などと罵倒する人が多いが、私は違うと思う。多くの現場の記者は、最初のうちは「アジア侵略の謝罪が足りない」という純粋な動機でやったのだろう。しかし動機がよければ、結果がよくなるとは限らない。

二・二六事件も、青年将校が純粋な動機で起こしたクーデタである。途上国で起こるクーデタは軍の中の主導権争いで、将軍クラスが指導者だが、二・二六の首謀者の磯部浅一は一等主計、村中孝次や安藤輝三は歩兵大尉という下士官の下剋上だった。この背景には、張作霖爆殺事件や五・一五事件で、軍の指揮系統を無視してテロをやった青年将校の「動機は正しい」と、おとがめなしになった背景があった。

近代国家を統合する力は広い意味のナショナリズムだが、日本のようにネーション(国民)の意識の希薄な国で、国家を統合することはむずかしい。それを明治維新では「現人神」という神の代用品を使い、キリスト教の代わりに儒教の尊皇思想を利用して国家意識をつくる離れ業に成功した。

この「国体」には中身がなく、何とでも入れ替えのきくものだった。ここで国民を統合するのは、キリスト教やマルクス主義のような体系的な教義ではなく、「万世一系」の天皇家への祖先信仰だった。日本人を死に駆り立てたのはナショナリズムではなく、家族意識にもとづく心情倫理なのだ。

それを利用したのが北一輝で、彼はレーニン的な社会主義を実現する梃子として天皇を利用した。彼の強い影響を受け、皇道派青年将校が起こしたのが二・二六事件だと思われているが、その主流は北の『日本改造法案大綱』を実現しようとする「改造主義者」だったという。

しかし彼らの計画には、致命的な穴があった。天皇を名実ともに主権者とする運動では、最終的には「御聖断を仰ぐ」必要があるので、天皇が拒否権を発動したら挫折することは必然だった。

その意味で青年将校に似ているのは、「アジアとの和解」や「女性の尊厳」などの無内容な心情倫理を掲げ、現状を否定する以外の目的をもたない朝日新聞である。そして彼らは、いまだに「誤報はあったが動機は正しかった」と主張している。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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