ニュースの多い日ですが、敢えて今日はこちらの方に注目してみました。国交省が毎年発表する7月1日時点での基準地価。2014年分が昨日に発表になったことを踏まえての思うところです。
基準地価の改善傾向は続き、三大都市圏(全用途)は前年のプラス0.1%からプラス0.8%へ、全国平均はマイナス1.9%からマイナス1.2%となっています。この全用途というのは住宅と商業用不動産のミックスでそれぞれを見ると三大都市圏で住宅がプラス0.5%、商業が1.7%と堅調であります。概ね、商業不動産が住宅不動産を引っ張り上げているという状況が見て取れます。但し、地方都市になるとまだ逆で住宅地の方が底堅く、商業地の下落の方が厳しくなっています。
これをどう解釈するかですが、REIT(不動産投資信託)などの投資マネーが地価を動かしているという構図が背景にあると考えています。REITの市場規模は安倍政権発足時の2012年12月末で4兆5000億円程度でしたが、2014年8月末で8兆8000億円規模まで増えているのです。つまり、ほぼ倍であり、純増は4兆4000億円もあるのです。しかもREITは投資利回りを重視するため、都市圏への投資が集中しやすくなります(技術的には地方都市の一部に高利回り物件が散在しているため、REITの見かけの成績を上げるためにそのような物件を抱き込むこともあります)。
では世界でも第二位グループにのし上がったジャパンREITがなぜ成長を続けるのかといえば一つは日本の不動産は世界と比べてまだ安いからであります(安いとは絶対額ではなく投資リターンの尺度です)。例えば平均利回りは3.4%、利回り上位のREITはいまだに4%半ばから5%台というものも存在するのです。アメリカの上場REITの平均が最新情報で3.13%ですから悪くないとお分かりいただけると思います。
日本の場合、不動産投資は特殊な事情が生じます。それは外国人投資家が個別不動産を購入しても手間暇がかかること、独特の商慣習が存在すること、一部に取得制限があること、そして不動産の絶対価格が高すぎることがあり、REITのように投資家が皆でお金を出し合って日本の不動産のプロがそれを運営する方が理に適っているのです。
今の預貯金の利回りは果てしなくゼロに近い水準、株式の配当でも1.8%程度の水準であることを考えれば3.4%の利回りは十分に魅力的であると言えるのです。
つまり、REIT市場には世界からお金が集まりやすく、更に日本の不動産を買い上げる余力があるという事です。今後、REITによる不動産購入は更に力を増すと考えられ、その場合、きちんとリターンを上げることのできる物件やその周辺での不動産価格上昇は期待できるかと思います。
これが冒頭の一部地域(=三大都市圏)の地価の上昇に繋がっていると考えてもよいかと思います。
理論的には日本の住宅地の不動産価値が上がる理由は基本的にありません。少子化で絶対的な住宅需要が減少し、若い世代がタワーマンションの様に無限に不動産を作り出せる「空間を所有する」傾向が強いことから「地べた」の不動産の需要は全国的に一定ないし減少し、パイを奪い合う構図と言ってもよいかと思います。
では、そのREITはどうやって収益を上げているかというとアパートであればフィットネスや眺望のよいソーシャルルームなどを兼ね備え、メンテナンスサービスもオプションでつくようなホテルライクな住居への需要は明らかに高まります。一方で古い建物はどんどん空になっていくというゼロサムが存在するのではないでしょうか?
とすれば町の「べた張り」の不動産屋はこの地価上昇のニュースに対して「実態は…」という事になっているはずです。
政府が不動産取引の活発化、土地価格の上昇を景気回復の兆しとして考えるならばそれがどうやったら実現でできるのでしょうか? 単純に不動産価値が上がる方法は二通りしかありません。需要を増やすか供給を減らすか、です。需要増は人口増。供給減は一般競争市場がある中でこれを細めるのは許認可の調整でしょうか?
需要については外国人の1年間といった長期滞在が一定条件を満たせば認められる方向ですので賃貸住宅への需要は増えるかもしれません。また、地方活性化をうたう安倍政権として私が思う施策としては点在する農村部落、小規模な町の集約化であります。この発想は反発必至ですが、絶対的効果があります(インフラなどのコスト削減と共に地方経済の活性化、更には高齢者のケアの充実が可能になります)。
不動産が上がる国は人口が増えることがまずは大前提であります。一方、日本人の富が不動産にヘッジしていることを考えれば不動産ミニバブルを作ることは経済的にはプラス作用になるのですがさてどうなるでしょうか? 指数としての地価は世界価格との比較という意味でもうしばらく上がるけれど個別不動産についてはかなりまだら模様というのが私の個人的予想です。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年9月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。