夫婦の絆を身をもって示した政治家 --- 長谷川 良

アゴラ

中国の海外反体制派メディア「大紀元」日本語版に9月19日、カンボジアの陸軍病院で不法な臓器移植をしていた医者関係者が逮捕されたこと、その背後に、反体制派活動家たちの臓器を組織的に不法摘出してきた中国側の関与が疑われているという記事が掲載されていた。

このコラム欄で数回、中国当局が拘束した気功集団の法輪功メンバーから生きたままで臓器を摘出し、それを業者などを通じて売買していた犯罪行為を報じた(「中国の610公室」2006年12月19日参考)。2000年から08年の間で法輪功メンバー約6万人が臓器を摘出された後、放り出されて死去したというデータがある。ちなみに、江沢民前国家主席(当時)は1999年6月10日、法輪功メンバーを監視する機関、通称「610公室」を設置し、法輪功関係者を徹底的に弾圧し、メンバーの臓器摘出とその売買を命じた張本人だ。


カンボジアの陸軍病院の場合、臓器移植提供者にそれなりの報酬が与えられていたというが、中国の場合、臓器提供者は放置され、家族関係者にも連絡されないというのだ。

ところで、臓器を他の人に提供するという行為は本来、自分の一部を他者を生かすために提供するものであり、その動機は尊い。当方はその政治信条は別として2人の政治家を尊敬している。一人は10年間、オーストリア首相(1987~97年)を務めてきたフランツ・フラ二ツキ氏だ。もう一人はドイツ与党社会民主党で現外相を務めるフランク・ヴァルター・シュタインマイヤー氏だ。両者とも妻の病気のためにその臓器(腎臓)を提供した政治家だ。シュタインマイヤー氏は臓器摘出とその後の療養のために政治活動をしばらく休んでいる。離婚する政治家が増えている今日、2人の政治家は身をもって夫婦の絆の大切さを示してくれたわけだ。

病に伏せる妻に自身の臓器の一部を提供した政治家は愛妻家だ。臓器を提供すれば自身もその後、支障をきたすかもしれないし、さまざまな後遺症も考えられる。それにもかかわらず、2人の政治家は自身の臓器を妻に供した。自分にできる最大限のこと、自分の一部を提供することで妻を救うことができた彼らは幸せだったろう。自分の命を他に与える行為ほど愛の行為はない。

世界では数多くの移植手術が行われている。提供者が現れるのを長い間待つ心臓病の患者たちも多い。通常、移植の場合、提供者と受ける側の間で了解がある。もちろん、アジアの一部では、経済的理由から自身の臓器を売る人々もいる。悲しいことだが、われわれの時代の現実だろう。

繰り返すが、カンボジアや中国の不法臓器売買はその本来神聖な臓器移植を汚すものだ。特に、中国共産党政権下の不法臓器摘出とその売買は非人道的な行為といわざるを得ない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年9月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。