ストーリーとしてのキャリア戦略 --- 城 繁幸

アゴラ

今週のメルマガの前半部の紹介です。

先日、サイバーエージェントの藤田社長が、同業他社に転職した部下への“怒り”を日経の連載で表明したことが大きな話題となりました。曰く、過去に億単位の損失を出したにもかかわらずチャンスを与えたのに、道半ばにしてバイトのように投げ出して転職するとは何事か、社内への示しをつけるためにも言わねばならん、と説明しつつ、けっこう本気でキレているのがよくわかります。


さて、筆者も人から
「ある程度のポジションにある人がぽいっと転職するのかアリなのか」
「有名企業トップが公の場で転職者を批判するのはどうなのか」
といった質問をされましたが、基本はビジネスなので良い悪いの問題ではないですね。あるのはあくまで損得勘定。今動いた方がトクだと本人が判断し、それを今回は引き留められなかったというだけの話です。トップの怒り具合からしてサイバー側が損をしたということでしょう。

とはいえ、筆者は“ストーリー”という観点から、今回の一連の流れを興味深く眺めていました。そこには、一つの物語を巡る冒険と確執が垣間見えます。なぜ、藤田氏はわざわざ損した話をコラムに書いたのか。そして、問題の引き抜きは、個人のキャリアデザイン的に本当に正解だったのか。マネジメント職の方はもちろん、転職を考えているすべてのビジネスマンにとっても興味深い内容となるでしょう。

人事部の愛するストーリー

4年ほど前に「ストーリーとしての競争戦略」という優れた経営書が話題となり、コンシューマー向けのマーケティングでもストーリー性を重視する企業がだいぶ増えましたね。つい先日もトヨタトップが「ドイツ車と比べてレクサスにはストーリーが欠けている」と発言して話題になりました。要するに、同じようなグレードの製品であれば、歴史と分かりやすく引き込まれやすいストーリーのある方を消費者は選ぶ、ということです。

同様に(第二新卒のようにポテンシャル色の濃い中途採用を除いて)ある程度の職歴のある人間には、キャリアを通して見えてくる一本のストーリーがあります。そして人事担当者も人間ですから、わかりやすいストーリーのある人材の方を評価することになります。

筆者はよく「筋の通ったキャリア」という言い方をしますが、同じことですね。「おー、この人はいいキャリアを積んでいるな」と感心する人ほど、職歴を見ると、美しく筋の一本通ったストーリーが浮かんで見えるものです。

たとえば、同じ30歳でSE職に応募したA氏とB氏がいるとします。A氏は専門学校卒業後、ずっとIT企業の第一線でシステム開発に携わっています。一方のB氏は東大卒業後、大手の金融機関に就職し、総合職としてシステム開発はもちろん、営業から総務まで幅広く社内業務をローテしています。

筆者なら、間違いなくA氏を採用しますね。それはキャリアの中に一本筋が通ったストーリーが見えるからです。専門学校を出て、最初は中小企業でこつこつ実務を身につけ、着実にキャリアアップしてきた人材。第一線の叩き上げが憧れのゴールとして自社の門を叩いてくれたという、人事が最も喜ぶサクセスストーリーがそこにはあります。

逆にB氏には何のストーリーも見えません。あえていえば「会社に言われた通りに与えられた仕事だけをこなしてきた」的なストーリーだけがおぼろげながら見えるだけです。まあ一生その会社で頑張るならそれはそれで「忠臣蔵」とか「樅の木は残った」的な忠義物語でいいんですけど、だったらなんでわざわざ転職するの?というのが率直な感想ですね(ちなみにこれは実話)。

同様のアングルは、すべての求職者にも適用されます。1、2年おきに職を転々としている人には、人事は「採用してもまたすぐに辞める物語」を連想します。前の会社から懲戒処分を貰っている人間は「また同じようなトラブルを起こす人の物語」を連想します。そして、社外のブラックユニオンに加入して会社を攻撃した人には「新たな職場でも粗探しして金を引っ張ろうとする物語」を連想します。

常に自分のキャリアを「第三者から読まれる物語」として意識すること。もちろん物語である以上、波乱万丈あっていいですが、そこには必ず一本筋を通す努力をしておくこと。それが筆者の考えるキャリアデザインの基本ですね。

以降、
「バイトのように投げ出す」転職はアリかナシか
藤田氏が本当に伝えたかったメッセージとその相手とは

※詳細はメルマガにて(ビジスパ夜間飛行BLOGOS


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2014年10月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。