エボラ出血熱患者が死亡後、アメリカでの現状は --- 安田 佐和子

アゴラ

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エボラ出血熱で、アメリカで発症第1号となったリベリア人トーマス・エリック・ダンカン氏が8日に死亡しました。

テキサス州ダラスに住む友人は、「ニューヨークほど人口密度が高いわけではないしパニック状態にはないよ」と平静なコメントを寄せてくれました。死亡したダンカン氏と生活を共にしていた婚約者、子供数人など接触した48名はダンカン氏の入院から11日経過した今も異常を確認していないため、周辺の住民は変わりなく日常生活を送っているようです。

それでも、一部で混乱を招いていることも事実。米政府はエボラ出血熱病が蔓延する西アフリカの玄関口、ニューヨークのJFK国際空港をはじめ、ワシントンD.C.近郊のダレス国際空港、ニュージャージー州のニューアーク国際空港、イリノイ州シカゴのオハラ国際空港、そしてジョージア州ハーツフィールド=ジャクソン・アトランタ国際空港の5港で厳格な審査の実施を発表しました。西アフリカからの入国者のうち94%がこの5港を利用するためで、JFK国際空港にいたっては半分を占めます。しかし、なぜかNYの国内線向けラガーディア空港で200人の搭乗機清掃職員がストライキに踏み切ったんですよね。

ラガーディア航空でストする職員たち。

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(出所:ABC)

エボラ出血熱をめぐる反応は、空港に勤務する職員だけにとどまりません。サーベイ・モンキーがダンカン氏の死亡前に実施した世論調査では、アメリカ人の58%がエボラ出血熱が大流行する西アフリカ諸国からの入国禁止を支持していました。20%は渡航そのものの禁止を求めています。さらに特筆すべきは2人に1人、51%がアメリカでの大規模伝染を懸念していました。

航空株はエボラ出血熱病患者がテキサス州で確認された9月30日から、下降中。アメリカン航空は8日までで7.0%安、ユナイテッド・コンチネンタル航空も6.4%安と落ち込んでいます。渡航者の減少で輸送・観光・ホテル業界への打撃が懸念されるだけでなく、お菓子業界も戦々恐々としていることでしょう。カカオの生産は西アフリカが世界の約70%、特にコートジボワールとガーナが55%を占めており、特にコートジボワールはエボラが猛威を振るうシエラレオネ、ギニアなどに隣接。ガーナはコートジボワールの東隣に位置し、東側に小国のトーゴとベニンを挟んでエボラ患者を抱えるナイジェリアをいただきます。ただカカオ豆先物(英語表記はココア)は9月30日に一時1トン当たり3350ドルを突破し3年半ぶりの上昇を記録した後は、いって来いに転じました。

カカオ豆先物のチャートは、こちら。

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(出所:Nasdaq)

世界銀行は8日、エボラ出血熱の経済損失は2015年末までに326億ドル(3兆5210億円)に到達しうると発表しました。2011年当時の中国オンライン小売最大手アリババの市場価値に匹敵する水準です。あるいは、2013年のiPad世界売上高に及びます。

エボラ出血熱の被害を食い止める上で有効な治療薬が望まれるなか、アメリカではバイオ製薬会社の米カイメリックスと加テクミラの一騎打ち状態が続いています。テクミラの試験薬「TKM-Ebola」は当初、リベリアで治療活動を行っていたリック・サクラ医師(快復後にマサチューセッツ州で再入院)に投与され、一定の効果を現しました。しかし担当医はテクミラの試験薬がどれほど影響を及ぼしたか未知数であり、エボラという死の淵から奇跡の生還を果たしたケント・ブラントリー医師の献血が寄与した可能性に言及しています。また、テクミラ製「TKM-Ebola」のきつい副作用も不安視したとみられ、NBCで勤務したフリーカメラマン(ネブラスカ州で入院中)も、テクミラ製「TKM-Ebola」からカイメリックス製の未承認薬「brincidofovir」に切り替えました。

ケント・ブラントリー医師、米議会の公聴会に出席するまで快復。

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(出所:Reuters)

ところが、ここにきてカイメリックス製「brincidofovir」の投与を受けたダンカン氏が死亡。8日にカイメリックスの株価は1.0%下落しました。ウイルスは刻々と進化する傾向もあり、エボラとの闘いにまだ終わりは見えません。ただアメリカで治療中の6名のうち、3名が回復したことこそせめてもの救いです。

(カバー写真:AP)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年10月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。