慰安婦の映画「鬼郷」クランクイン --- 長谷川 良

アゴラ

3人の娘さんをイスラエル軍の空爆で亡くしたパレスチナ人医者イゼルディン・アブエライシュ氏(現トロント大学准教授)は、「憎悪はがん腫瘍だ。そのまま放置しておくと繁殖し、死をもたらす」と語ってくれた。医者はしみじみと、「憎悪を持ち続ければ、犠牲者の救いを妨げる。生きている者が亡くなった者の分まで生きてこそ、犠牲者は慰められる」という。医者は亡くなった3人の娘さんの願いを継いで、学業に励む中東女生たちを支援する奨学金基金「Daughters for life Foundatoin 」を創設し、多くの学生たちを応援している。


韓国の朝鮮日報は10月25日、慰安婦をテーマとした映画「鬼郷」のクランクインを報じていた。その記事を読んでいた時、この夏、ヨルダンのアンマンで会った医者のことを思い出したのだ。

「韓国は憎悪を処理できず苦悩している」と感じ、心が苦しくなってきた。その一方、パレスチナ人医者の証を改めて羨ましく感じた。ちなみに、映画のタイトル「鬼郷」とは、慰安婦となった女性が異国で亡くなり、魂となって故郷に戻るという意味という。

韓国は慰安婦像を駐韓国日本大使館前だけではなく、米国など世界各地で設置し、慰安婦の恨みを晴らそうとしている。そして今、慰安婦となった少女の悲しい生涯を映画化しようとしている。朴槿恵大統領は「韓日首脳会談を実現するためには慰安婦問題に対する日本側の真摯な謝罪が前提だ」と繰り返す。

当方は韓国人に慰安婦問題を忘れよ、といっているのではない。そのようにいえる資格も権利も当方にはない。韓国人に憎悪を乗り越えてほしいのだ。どのような言動もその動機が憎しみの場合、決してよき結果をもたらさない。

当方はこのコラム欄で「憎悪を輸出してはならない」と何度か書いた。サムスンや現代自動車の対外輸出のように、韓国民族の憎悪を世界に広げてはならないのだ。

憎悪は破壊的なエネルギーを持っている。それを発信する者もその受信者も幸せにはなれない。個人的には自分と他者を傷つけ、民族・国家的にはその国運を損なう。政治家や一部の国民が憎悪という感情を弄ぶことは危険だ。止めることができなくなるからだ。セルビア人青年の発砲が第1次世界大戦を勃発させたように、憎悪に基づく言動は何を引き起こすか分からないのだ。

大国の支配を受け続けた韓国国民には多くの恨みがある。「日本には100年の恨み、中国には1000年の恨み」といわれている。だから、その恨みは憎悪となって噴出するわけだ。

韓国を愛する日本人の一人として、韓国国民が恨みを克服し、憎悪という感情を昇華した国家、民族となってほしい。韓国国民が歴史の憎悪を昇華できれば、韓国は文字通り世界的な民族として自他共に誇れるだろう。慰安婦の映画「鬼郷」のクランクリンというニュースを聞いて、正直に言って、強い痛みを感じた。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。